【ノエル編】第1章:もんむす・ぱにっく!

【ノエル編】第1章 第1節:特異点世界のモンスター娘

【ノエル編】第1章 第1節 1話

 何もない空間に、ただ二人佇む少女と少年。少女ノエルは、少年エンブリオが空中に出したウインドウを眺めながら眉間にシワを寄せる。エンブリオはそれをニタニタとした笑みで眺めながら、「ここを調整したら終わりだね」と優しげな声色で語りかける。

 ノエルは「あ、ここかあ」と吐息混じりの声を出し、ウインドウに手のひらをかざす。


 全ての並行世界を強引に合一し、全世界に生きる人々を危険にさらしたアラン・プレイヤーの計画を阻止し、ノエルたちは仲間と離れ、およそ100年もの体感時間をこの狭間の世界……通称境界で過ごしてきた。

 合一されつつあった並行世界を元の形に戻すため、気が遠くなるほどの時間をひたすらやるべきことのためだけに費やした。


 それも、今終わった。たった今、全ての並行世界が合一前の形に戻ったのだ。


「やったー! 帰れる!」

「お疲れ様だね、ノエル」


 ノエルの眉間にはもう、シワはない。エンブリオが端末を消し、ノエルに微笑みかけると、ノエルも微笑みを返す。ふふん、と鼻を鳴らしながら。


『よく頑張ったな、相棒』

「うつろー、ありがとう」


 ノエルの脳内に直接語りかける声がひとつ。ノエルの契約悪魔・うつろである。彼女はアランとの戦いの中で肉体を失い、今はノエルと合一化されている。

 ただ、完全に一体になったわけではなく、うつろの意識は残っており、こうして時折脳内に直接語りかけてくる。それも、100年という長い時間をただ広いだけで何もない空間に居続けているノエルにとって、ありがたいことだった。


「さ! 今すぐ帰ろう!」

『だな、皆待っているだろう』

「じゃ、僕はまた君の中に戻るとするよ」


 表に出てきていたエンブリオが、ノエルの肉体に再び戻っていく。アランとの戦いの際、ノエルの肉体にはエンブリオとうつろ、そして精霊たちの魂が居た。精霊は今、ノエルたちがいた核世界に戻り、世界を巡るエネルギーの管理の仕事に勤しんでいるところだった。


 ノエルは息をひとつついて、ゲートを開こうと手を伸ばす。

 すると、目の前にゲートが開いた。


「え?」


 ただ、ノエルは開いていない。今しがた開こうとはしていたが、まだ開いていなかった。この空間に来られるのは、神に肉薄するほどの力を持つ超越者のみ。

 ノエルが知るなかではそう多くはないが、決して少なくはない。とはいえ、この100年間ではじめての訪問者だった。


「ノエルー、やってるー?」


 居酒屋の暖簾でもくぐるのかというようなテンションでゲートから出てきたのは、金髪の活発そうな女・アイコ。ノエルの幼馴染であり、姉のような存在だった。

 アイコはノエルの姿を見て、にこりと笑う。一瞬だけ、瞳が潤んでいたようにノエルには見えた。

 アイコがノエルに抱きつく。100年ぶりに感じる家族のぬくもりに、ノエルの目頭も熱くなっていた。


「ノエル! もう心配かけて!」

「えっと……さっき終わったよ」

「残業お疲れ!」


 ノエルは最初、「100年かかる」と言って仲間のもとを離れた。とはいえ、元の世界では1ヶ月ほどしか経過しない。この境界と核世界との間には、大きな大きな時差がある。

 結局、数日オーバーしてしまったが、ノエルは誰にも連絡しなかった。連絡しようと思えば出来たが、そうすると仕事をやり遂げるための決心が揺らぎそうだったし、そもそも100年くらいかかると言っただけなのだから数日程度誤差だと思っていた。

 しかし、違ったらしい。


「ごめんね、帰ろっか」

「あんたねえ……そんな家出から戻るみたいに」

「あはは、大好きだよアイコ」

「情緒どうなってんのよ……ルミに取っておきなさいそういうのは」


 そう言いつつ、アイコは頬を赤らめた。


 ゲートを開き、中に入る。100年ぶりに会える家族たちの顔を、誰より大切な愛する人の顔を思い浮かべ、現れた光の中に飛び込んだ。


 目の前に、100年間ずっと見たいと願い続けた顔がある。ぎょっと目を丸くして、ノエルをじっと見つめる最愛の人の顔。


「ルミいいいい!」


 思い切り抱きつくと、手がワタワタと動いているのを背中で感じる。ルミの身体の温かさに、ノエルはまた目頭が熱くなるのを感じた。


「ノエル……おかえり!」

「ただいま! 大好き!」


 目の前には、ノエルたちが暮らす家。魔女の家という、困りごとを何でも解決するギルドであり、ノエルたちの生活基盤であり、帰るべき場所が確かにあった。


「あの、目の前でいちゃつくのやめてくれない?」

「あっ、へへへ、ごめんごめん」


 アイコの呆れたような声に、恋人を腕から離した。


「ルミ、もう大丈夫なんだっけ」

「ああ、もう本能が暴走することはない」


 ルミは、魔族であり人間であり上級淫魔でもある。サキュバスと呼ばれる上級淫魔には、抑えがたい肉欲の本能があるが、ルミは世の中の理に干渉できる悪魔本来の能力に目覚めたことにより、淫魔の本能が抑えがきく程度に弱まっていた。

 ノエルは「良かった」と微笑み、家の扉に手をかける。


「懐かしいだろ? なんせ百年ぶりだもんな」


 ルミに言われて、改めて家を見上げる。元々は、ラインハートというルミの騎士時代の同期の別荘だったが、譲り受け、今はノエルたちの拠点になっている木造の家。

 別荘としては大きな家だったが、見ないうちにさらに大きくなっているようだ。


「増築したの?」

「ああ、ギルドって普通冒険者を登録するでしょ? 最近あたしたちも登録制にしたんだけど……」

「登録した冒険者たちの待機所とかでな、建て増しが必要になったんだ」

「なるほど……いいじゃん」


 ノエルは、ますます大きくなった自身のギルドを見上げ、誇らしい気持ちになった。

 これからは、冒険者の時代が来る。アランとの戦いにより、平行世界の存在やロストグラウンドの現状が広く知れ渡ることになった。渡航手段も、魔女の家は有している。かつて日本と呼ばれたこの倭大陸を飛び出し、人々がロストグラウンドを探索する日がそう遠くないうちに訪れるだろう。

 倭大陸しか冒険する場所がなく、冒険者という職業が半ば形骸化していたこの世界において、これから冒険者ギルドとしての本分が始まるのだ。


「ますます忙しくなるね」

「めっちゃ依頼者増えたんだから! バチクソ忙しいわよ」

「ノエルが不在だと知って落胆した依頼者も多い……覚悟しておいたほうがいい」

「まじか、嬉しい悲鳴だね」


 自分がいないことに落胆するとは、ノエルにとっては意外なことだった。自分より優秀な人材も、魔女の家には大勢いるのに、と。ノエルは自身を優秀だとは思っていなかった。むしろ、戦うことばかりで頭を使うようなことは苦手だから、平時にはあまり役立てないと思っている。

 もし役に立たなくなったら、そのときは宴会芸専門の人材になろうかと冗談半分で考えていたところだった。


「というか、早く入りなさい」

「ああそうだね、ついつい」

「まったく……集まると一生喋っちゃうの、あたしたちの悪い癖よね」

「いいじゃないか、仲が良いということだ」


 ノエルは、ふふっと笑いながら扉を引いた。

 中に入ると、見知った顔が全員食卓についていた。と言っても、食卓が知っている位置とは違っていたのだが。以前食卓兼応対用スペースとして機能していた食卓には、椅子と小さなテーブルが並べられている。その奥に、食卓として使っていたテーブルと自分たちの椅子が置かれていた。

 冒険者ギルドとしては生活感がありすぎるが、実際に登録冒険者以外のスタッフは全員ここで生活しているのだから仕方がない。


「お、帰ってきおったな、我らが家長が」

「お姉ちゃんおかえりなのだわ!」

「おー、ノエルおかえりー」


 頬に傷がある関西弁の男・ラウダと、まだ見習いの次期魔族長・フレン、オーパーツを操る最強の事務員・カイがノエルを見て一斉に声をあげた。

 そして、意外な顔もあった。


「おかえりなさい、ノエル」

「おかえり」


 父母が、ノエルを温かな笑顔で出迎えた。母親ノエラート・グリムは、自らの魂を切り離してノエルを生み出したという。世界のエネルギーを管理する闇の精霊として生み出したが、精霊としての自意識を封じ、普通の人間としてアルバート・プレイヤーに育てさせた。

 父アルバートは一度死んだものの、異世界の自分の身体に魂を入れられたことで蘇ったのだ。その事情はノエルも知るところだが、てっきり故郷にいるものだと思っていたから驚いてしまった。


「二人はどうして?」

「僕が呼んだんだよ」


 ノエルが疑問を口にした瞬間、ノエルの身体からエンブリオが飛び出した。


「エンブリオが?」

「例の件だよ」

「ああ……まあ知っておいてもらったほうがいいか」

「例の件?」


 首を傾げるルミに、ノエルは頷き返す。そのままいつも座っていた椅子に座り、ノエルは魔法で作ったコップに魔法の水を注ぎ、一気に飲み干した。考えてみれば、100年ぶりのことである。久方ぶりの感覚に、咽てしまった。

 ルミに背中を擦られ落ち着きを取り戻すと、咳払いを一つ。


「みんな知っての通り、私が不在だったのは中途半端に合一された世界を元に戻すため」


 人類神プレイヤー。その使徒であるアラン・プレイヤーにより、全ての世界が混ざり合おうとしていた。それを阻止したのがノエルたちだが、既に合一化が始まっていたため、中途半端に混ざりあってしまったのだ。

 それを少しでも戻すため、ノエルは自らの魂に宿したエンブリオとうつろ、そして剣に宿る光の精霊エラートと共に、体感100年もの時間を過ごすことになった。


「ただ、全部元通りになったわけじゃなくてね」

「そうなんか?」


 最初に口を挟んだのは、ラウダだった。このなかで、唯一の異世界出身者である彼には思うところがあるのだろう。

 ノエルは、こくりと頷く。


「三つの世界だけ、どうしても干渉できなかったの」

「三つ?」

「この世界と、この世界のすぐ近くにある並行世界P000000、この世界から少し離れた並行世界P000127の三つ」

「待て待て、急になんやそのPなんちゃらって」

「並行世界管理システムに定められてる通し番号さ」


 ノエルがエンブリオと協力して、半端に合一化した世界をもとに戻すために使ったシステム。そこには、あらゆる並行世界の情報があり、世界が通し番号により管理されていた。ノエルたちのいる通称核世界はP000001である。

 ラウダは怪訝な顔をして腕を組んだまま、ゆっくりと頷いた。


「まじでシステム化されとるんやな……もっとファンタジーな感じや思ってたわ」

「それでー、その三つの世界がどうしたのー?」


 間延びした喋り方をするのは、事務員のカイ。彼女はテーブルの上に置いてあったオーパーツ……異世界からの流入品の部品を手で弄りながら、ノエルを見据える。


「この三つの世界は、半端に混ざっててね……ゲートも繋がりやすいんだよね」

「つまりオーパーツの流入量が増えるのか」

「異世界からの漂流者も増えるんやろな」

「それもあるけど……この三つの世界の合一化が止まらないんだよね……ゆ~っくり、合一化してるの」

「まじか、ヤバいわね」


 皆一様に困惑したような引きつった顔を浮かべている。

 ノエルも、最初に知ったときは困惑したものだ。体感しにくいほどゆっくりと、違和感を抱けないほどの速度で合一化している。人々の魂の合一はまだ行われていないし、まだ巨大な建築物の流入などもないが、ゆっくりゆっくりと混ざり合おうとしていたのだ。

 例えるならば、これまで付かず離れずの位置にあった三つの層が、ゆっくりと重なろうとしているということだった。


「それともう一つ、憂慮すべきことがあるよねノエル」

「そう、むしろそっちが本題」

「まだあるのか?」


 ノエルは深く息を吸って、吐いてを二度繰り返してから、口を開いた。


「このままだと全ての世界が崩壊するかもしれないの」

「なんだって!?」


 隣でルミが立ち上がり、椅子が大きく音を立てた。ほかの仲間たちも、目を大きく見開いて固まっている。


「そもそもプレイヤーが世界合一化なんて図ったのは、並行世界が増えすぎたからだというのは聞いているよね?」

「あ、ああ」

「せやけど増殖は止めたんやなかったか?」


 ラウダの疑問の通り、エンブリオは並行世界の増殖をノエルに説得される形で止めていた。元々、エンブリオが独断で行ったのが世界複製計画である。世界を無数に分岐させ、最もよい結末を迎えた世界を残し、それ以外を消し去るという強引なユートピア計画。


「世界が増えすぎて、世界全体のデータ容量が圧迫された状況はそのままなのさ」

「せやから神が滅ぼしに来るってことか?」

「違うね、このままだと世界は遠からず自壊する」

「そのうえ三柱神も、世界を壊しにくると思うんだよね……まあこっちはすぐじゃないと思うけど」

「プランの好む混沌にはなりそうだけど、世界が終わるんじゃ本末転倒ね」


 三柱神のなかでも特に権力の強い神が、プランである。プランは混沌とした世界を好み、世界をおもちゃ箱に見立て、遊んでいるような神。世界が平和になれば面白くないと感じ、滅ぼしに来ることが予想されている。

 もともと、プレイヤー達もプランのご機嫌取りのために動いていた。同時に世界の容量問題を解決するため、合一化計画を思いついたのだった。

 これが、ノエルたちの知る神々の思惑。

 しかし、それとは別に世界は崩壊を迎えようとしていた。


「つまりあれか? 神々への対策をしつつ世界が自壊しない方法を探らないかんっちゅうことか」

「その通り、君は理解が早くて助かるよ」

「まあオタクやしそういうアニメやゲームを何度か見てきたしな……でもまさか現実で起こるとは思わんかったで」

「あのー……」


 皆が困惑しているだろうなか、一際顔を引き攣らせたグリムがおずおずと手を挙げた。


「どうしたの? お母さん」

「予言書が盗まれたので取り返すというのも、加えて貰えないでしょうか……」

「はい!?」


 ノエルは大声をあげた後、頭を抱えてしまった。


「それはやばすぎるよ、お母さん……」

「悪人の手に渡ったら……というかー、盗む時点で悪人かー」


 予言書。かつて、アイコの導きにより一時的にノエルたちが手にし、危険だからとグリムが管理することになった未来から流れ着いた書物。

 それは、最初に読んだときは未来の誰かの書いた歴史書だった。倭大陸の未来での歴史が記載されている。現在を生きるノエルたちにとって、予言にほかならなかった。

 予言書に書かれた内容は、ノエル達が中身を知ったことで変わった。ノエルたちが未来を知ることにより、彼女らの行動が変わり、未来が変わったのだろう。

 リアルタイムで現在の行動の行き着く先がわかる書物だ。危険人物の手に渡れば何が起こるか、ノエルには考えなくとも察しがついた。

 だからこそ、グリムという世界中から救世主や女神として崇められる存在に託したのだ。


「本当にすみません、ノエル!」


 グリムが両手を合わせ、腰を折る。


「すまんで済むことちゃうで……」

「まとめると、いろいろな意味で世界がヤバいってことなのかしら?」

「フレンは賢いねー」


 フレンが首を傾げながら、話をまとめた。ひどく矮小なまとめ方のようだが、魔女の家らしいなとノエルは頷いた。

 そうして手をパンッと合わせる。暗くなりそうな顔を必死に抑え込み、笑顔を作って。


「と、いうわけで! 手分けしてあたろう!」

「そうだね、それがいいさ」


 ノエルは改めて、座っている面々を見渡した。家長ノエル、副家長ルミ、渉外担当ラウダ、事務員カイ、見習いフレン、名誉顧問(仮)のグリムとアルバートの7人がいる。

 あたるべき事象は4つ。

 ひとつ目は、神の世界への扉を開くために必要だという歯車像の収集。既にひとつは手元にあり、神の企みを止めるには残る2つが必要になる。現状は、まだ緊急性は低い。世界が混沌としている今、プランが行動を起こすとは考えにくい。コンパイラは、ノエルと一応の協力関係にあり、何かをしてくるとは思えない。


「三人の神のなかで、近々何かしてきそうなのはプレイヤーくらいかあ」

『だな……だが、今はどうしようか画策中というところだろう。アランの企みが破綻した以上は』

「まあでも、楽観はできないよ」


 2つ目は、合一されつつある3つの世界の調査。これは、ノエルが行わなければならないことが既に確定している。現状、このなかで並行世界への感知能力があるのはノエルとエンブリオとアイコの3人だが、この事象に関してはノエルとエンブリオが一番詳しい。

 3つ目は、世界の自壊を防ぐための手立てを探ること。これも、ノエルとエンブリオが当たらなければならないことが確定している。理由は同様だ。

 4つ目は、盗まれたという予言書の捜索。これは最も緊急性が高い案件だとノエルは判断した。合一化も神の企みも、今すぐ世界がどうにかなるという問題ではないが、予言書は違う。手にした誰かが自分の都合の良い未来になるよう、行動を起こすだろう。


「7人で対処すべきことは4つ……通常業務も止めたくないし」


 ノエルはその身にエンブリオとうつろを宿している。そのうえ、剣には光の精霊であるエラートの魂の半分が宿っている。実質4人のようなものだから、1つ目と2つ目は自分でなんとかすればいいとノエルは思った。


「話は聞かせてもらったよ!」


 しかし、そんなノエルの考えを切り裂くかのような大声が響いた。

 振り返ると、ゲートから最強の魔女であるブラック・バカラが顔を出していた。


「バカラ様!?」

「あなた、また盗み聞きですか」

「なんだい? こちとら小娘が帰ってくるってぇから様子見に来ただけなんだけどねぇ」


 バカラが、ノエルに微笑みかける。その笑みに、心底ほっとしている自分自身がいて、ノエルも自然と笑顔になった。今度は作った笑顔じゃない、心からの笑みをみんなに向ける。


「よし、じゃあチーム分けを発表します!」

「よっしゃ来た! なんでも来い!」

「まず、世界の合一と自壊について調べるチームは、私とカイちゃん」

「え、わたし!?」


 カイが、心底不思議そうに自分を指した。


「当然、考えがあってのことだよ」

「ほんとーかなー?」


 カイが目を細めた。

 しかし、ノエルには本当に考えがあった。カイはオーパーツと呼ばれる異世界の技術および流入品に詳しく、旧時代にもある程度の造詣がある。並行世界について考えるのであれば、必要な人材だ。


「二人は心もとないねぇ……アタシのとこからダリアも出そう」

「それは助かります、すごく」

「今世界で三番目に強い奴さね、ま、役には立つよ」

「ちなみに一番と二番は?」

「一番はアタシ、二番は嬢ちゃんさ」


 聞いたノエル自身も答えはわかっていたが、腰に手を当てて大きな胸を張るバカラの姿に思わず吹き出しそうになった。実際、ノエルから見てもその評価は正しい。ノエルは一度バカラに勝ったことがあるが、バカラのドジが原因である。

 ドジさえなければ、世界一の実力者であることは確かだ。

 そして、ノエルには自身がダリアより強いという自負もあった。


「じゃあそのチームは私、カイちゃん、ダリアね」

「まあ妥当だな」

「ルミがそう言うなら……そうなのかなー」

「次、歯車像捜索チームはラウダとフレンとアイコ」

「ま、物探しなら俺以上の適任者はおらんな」


 ラウダは、ラウダ商会という倭大陸全土に影響力を及ぼす大商会の元会長。元とはいえ、未だにその影響力は大きく、ラウダが一声かければ商会が動くだろう。

 フレンはラウダによく懐いているし、ラウダが大雑把過ぎて気が付かないことに気がつくこともある。アイコは荒事になったときに、戦力として必要だ。それに、既にひとつはアイコが見つけているという実績もあり、神々について最も詳しいという事情もある。


「次、予言書捜索チームはルミとバカラ様」

「えっ私がバカラとか?」

「あら、アタシとじゃ不満かい?」

「いえ滅相もないです」


 ノエルは二人の様子を見て、肩を落とす。どういうわけか、ルミはバカラに対し少しだけ苦手意識を持っているようだ。以前はそんなことがなかったのだが、自分が居ない間に何かがあったのだろうか。ノエルは訝しんだ。


「最後、お留守番はお父さんと……エラートさん」

「エラート? 出せるんか?」

「うん、見ててね……まず分身を作ります」


 ノエルは言って、自身の胸に手を当てた。すると隣にノエルがもう一人現れる。


「それで分身に剣を持たせます」


 剣を持たせると、分身の瞳に光が宿った。そうして分身はノエルに剣を返し、口角を吊り上げる。


「これでエラートさんの出来上がり」

「三分クッキングか何かか?」


 剣からノエルの分身に魂を移したエラートは、目を細めて口元に手を当て不敵な笑みを浮かべている。


「ふふふ……私が完璧にお留守番してあげる……敵が来たらぶっ潰してあげるわ」

「エラートさん、なんかキャラ変わりました?」

「いや、そんなもんやったで」

「ラウダが言うならそうなのか」


 エラートは握りこぶしを作り、腕まくりしてみせた。


「エラートか、元気そうだな」

「あ、ノエルのお父さんね! ヤッホー! 元気してた?」

「フッ、お前よりは元気じゃなかったさ」

「喋る度にキャラがブレてんじゃないの? この人」


 ノエルは二人のやり取りをひとしきり眺めてから、手を叩き、みんなの顔を見渡す。未だに申し訳無さそうに頭を垂れている一名以外は、頼もしいと感じられる顔をしていた。


「よし! じゃあ、行動開始!」

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ロストエンブリオ中章~モンスター娘と4つの滅び~ 鴻上ヒロ @asamesikaijumedamayaki

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