第13話 謎の男


――――すっかり平穏を取り戻した後宮では、息抜きを兼ねて鍛練中である。


「参ります!セナさま!」

そして順番に武官たちの手合わせに付き合う。まぁ、私と手合わせしたくて入って来た子も多いから、皇后になってからも鍛練に加わってくれて嬉しいわ。むしろ……後宮武官として私から1本取ることに燃えているような。

それでも彼女たちのためになるのなら。いくら私だけが強くたって、できることには限りがあるから。みんな一緒に強くなった方がお得でしょ?


「はぁっ!」

「力任せに剣を振らない!もっとフットワークを活かして!」

女性武官の剣をさらりと押し出しながら指示を出す。


「女性用の剣も、力も、残念ながら男に比べれば劣る部分もあるわ。でもだからこそ、細かい立ち回りや作戦で勝つのよ」

私は北異族だから、同胞相手じゃないかぎり男相手でも力で押し出すが。

女性の力だとどうしても押し負けてしまう。


「は、はい!」

女性武官が頷く。

だからこそほかに活かせるものがある。

私の場合は同胞や兄さまを相手にするから、そうしないとどうしても押し負ける。

だからこれは私の経験則でもあるのよ。まぁ私の稽古がどんなものやらと兄さまから指名され、兄さまとやった時は周囲から悲鳴が上がったが。危うく後宮の建物を壊すところだったのでルーからストップがかかったのだ。

ほんっと、殺す気かぁ、あの兄は!ま、実戦さながら……実戦でもなかなかない稽古を見せられてみんなの勉強になったなら何よりだが。


「今日はこのくらいにしましょうか」

「はい、セナさま」


『本日もありがとうございました!』

うん……!一緒に汗を流すっていいわね~~。運動後の水をくいっと煽れば。不意に何者かの気配を感じ取る。


これは……グイ兄さまが怒った時に……?いや違う。私の表情に何かを悟った武官たちが身構える。


「みんな、下がって!」

「セナさま!」

武官たちが駆け付けようとするが、それよりも速く。まるであの兄の剣戟のごとく迫る……!しかし刃ではなくこれは……棍だ……!


「何者……!」

色素の薄い茶髪に、右目が青。顔の左目部分には眼帯をつけている。

さらにガツンと受け止めた棍は……重い。

何から何まで兄さまの剣戟みたいに重すぎる……っ!これは私じゃなきゃ無理だ!


「……※※※……※※」

棍を持つ男は、私の知らぬ言語を紡ぐ。何て……言ってるの……?

共通語じゃない。外国語……?であっても、細かい訛りはあれど分かるはずだ。考えられるのは、元々は主民族の言語を話していなかったものたち。私たち北異族や、西異族である。

その他にも世界各地に独自の言語を持つ民族がいる。


「セナさま!」

それでも加勢してくれる武官たちだが、私を反動で押し退けると今度は彼女たちを吹き飛ばすように棍を振るう。


「……うぐっ」

重すぎるのだ、あれは。まるで兄さまのような馬鹿力。だが兄さまと何かが違うその違和感は。


そして武官たちを吹き飛ばし、ニヤリとほくそ笑んだ男は次なる一手を繰り出す……!


「セナさま……っ、うぐ、今加勢を!」

「ダメ!」

この馬鹿力は危険すぎる!

男の重たい棍を受け止める。私ですら腕が軋むっ。


「みんなに手は出させない!」

「……※※※……オマエ……」

「え……?」

そしてその瞬間。ピシリと亀裂が走った。嘘でしょ!?いくらなんでも……皇帝陛下のお下がりが砕ける!!

――――思えば兄は……どんな名工の剣であろうと……折ったわね。って、問題はそこじゃない!


パキンと砕けた剣を、柄を掌からはたき落とすがごとく男の棍が激突する。


「……っ」

重すぎる……!


「……※※※、オマエ、手にイレタ」

目当ては……私!?


「セナさま!」

「来たらダメ!」

少なくともコイツの相手は……っ。


ニィと笑んだ男が私の腰を抱き寄せれば。

私ごと、華麗にその場から跳び去る。ほんと……どんな生態してんのよ……!



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