全世界で前世の記憶を取り戻す病気が発生してしまった

@mumumumum

第1話 発病


 2070年頃から、世界各地で謎の発熱が起こる現象が報告された。しかしこの発熱では死に至る者は現れなかった。その発熱期間は人それぞれで、短くて1日長くて20日間というものだった。この発熱は全世界で研究され、約10日以上発熱が続いた者の中から、前世の記憶が蘇ったと言う者達が続出した。


 それから、10年後、2080年、現在。

 この症状は【アレード】と名付けられ、アメリカからの研究結果で、全ての人が一生に一度だけ必ず起こる病気だと、発表された。

日々このアレードの研究は続いているが、現在解っている事は、アレード発病後は、全ての前世の記憶が蘇る事だ。そして、まだ確定はしていないが、地球内で魂が輪廻している。という研究が今一番ホットな研究テーマらしい。

 発病期間が短い人は、取り戻した記憶が少ない者が多かった。ただ、アメリカの研究者の話しでは、全ての前世の記憶が理論的には、復活していると言う事なので、何万回輪廻しているか解らないが、魂が記憶していないだけとの事である。

 この時代の研究者は天才と呼ばれる人が多く生まれている。なぜなら、前世も研究者だったり科学者だったりの記憶を持っている者が少なくないからだ。当然、科学の進歩も目まぐるしい。



 斉藤朱里さいとうしゅり、24才、看護師。アレード未発病。


「7日目患者さん来ます。アレード室、空いてますか?」


「受け入れ可能です」


 アレード発病から、5日過ぎた人は入院するように政府から勧められていた。人の記憶を思い出す可能性が高いからである。

 私は、都内の某病院でアレード発病者を積極的に受け入れている病院に勤務していた。業務は激務で、常々辞めたいと思っていた。一度受け入れたアレード発病者は治療する必要は特に無いからである。なので、通常業務もある。

 アレードの発熱が引くと、その瞬間に記憶が戻って来るらしく、パニックを起こす者、突然凶暴になる者、などのケアも看護師の仕事だった。

 若い年齢でアレードにかかった者には、現在の記憶よりも前世の記憶のが強くほぼ現世の記憶が薄くなってしまった人もいた。私が受け持った患者さんの中には、12才でアレードにかかり近い前世にイギリス人の記憶があり、日本語を忘れ英語しか喋れなくなってしまった少年もいた。その子は何とか現世の両親の顔を覚えていて、徐々に現世になじんでいったみたいだ。

 勤め先の病院では、アレード専門の部署が設立され、そこに移動となり、色々な人の人生に関わる仕事に変わっていった。


 それから、3年の月日が流れた。約1年前に、政府でアレード入院費用の全額免除が決まってからは、民間のアレード入院施設が出来るなどして、病院の部署が縮小され始めた。


 私には学生時代から付き合っていて、同棲している婚約中の彼氏がいる。彼の名前は、磯貝大樹いそがいたいき、27才、いわゆる普通のサラリーマンだ。


「朱里、大丈夫か? 朱里」


「大丈夫よ。よく見てきた症状だから。アレードが発病したみたい。こんな感じなんだ……」


 

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