十三番目の剣聖

@Si-com

???

 忙しい。

 疲労でつりかけている手で、何とか情報を入力していく。

 周りの空間は、目を凝らしても見えないほど暗い。頼りになる明かりは、目の前にある球体と手元にあるキーボードのみ。

 目の前の球体は、「ジオ」。この星の自然環境を内包した実験装置。

 今、次の時代である人界期に必要な目標・リソース・基盤をジオに設定し、世界の構築に必要なプログラムを組成しているところだ。

 「報告します。竜興期における全肉体情報の回収の達成を確認。さらに肉体の発達による知性体の誕生を確認。この二つをもって人界期への移行を開始します。承認を。」

 ジオに設定した通知用アナウンスが告げた。

 「承認する。」

 「承認されました。これより移行を開始します。」

 「ここからか」

 身体を伸ばしながら一息のつかの間、けたたましく警報音が鳴り響く。

 「なんだ?」

 「報告します。人界期に深刻なエラーが発生しました。」

 「エラーなぞ起こるはずが。…………どういうことだ?霊明期のリソースを消費し人界期を存続させる???そんなことできるはずがない」

 竜興期・人界期・霊明期それぞれつぎ込むリソースが限られている。そのため少しでも狂いが生じると最終目的である降誕期の実験が行えなくなる。想定外の事案に混乱しながらも原因を探る。

 「……こいつが原因か。」

 「どう対処いたしますか?」

 直接干渉は避けたい。ジオへの移行だけでもかなりのリソースを割いてしまう。できるだけ多く降誕期に残しておきたい。

 しかし、このエラーは無視できるものでもない。

 「代わりのものを向かわせるか。剣聖を生み出し、人界の楔達と契約させろ。彼を対抗措置に充てる」

 「了解しました。剣聖を管理者の使徒として、ジオに転送します。」

 「…………はぁ、早速知性体の厄介なところがでたな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 人界期稼働から数時間後、背後に設置している機械が作動した。

 「・・・発生機が作動した?」

 ジオの明かりが届く範囲には他にも実験に必要な装置がある。その一つが転送装置「天の御柱」。これは、ジオに直接干渉を行う時のみ使用する装置で、ジオからこちらには移動できないはずだった。人界期150年。この時点でここまでのことを「知る」とは予想外だった。

 何が来るのか、期待で胸が膨らむ。徐々に「天の御柱」が人型を投影していく。扉が開くと中から人が出てきた。

 「ここはどこだ?」

 「こんどはなんだ、人界から解脱してこの世界にくる人間だと?びっくりだよ竜興期に       

 はこんなことなかったんだが」

 周りを見渡している彼に声をかけてみる。

 「君、名前は?」

 問いかけると、こちらと目が合った。肉をそぎ落として、痩せ細った体に見合わない、器の大きさと知識の多さ。なるほど、どうりでここに来れるわけだ。

 「名前は、捨てた。あなたは…………人か?」

 「君の目からは人のように見えるのか。まあ、いい。いちいち君の視覚情報を説明するのもめんどくさい。ただ、私は人ではない。あくまでもきみのいた世界を管理していた存在だ」 

 「わたしのいた?」

 指を指す方向には所々白い雲に覆われた緑と青の球体「ジオ」が。 

 「なるほど、私は「解脱」出来たのか。であれば、ここが「本当の世界」か?」 

 驚いているようだが、彼の頭の中では既知のことらしい。

 「そうとも言えるな。君がいた世界は私が組み立てたものだよ」

 「組み立てた?」

 「君が見てきた彩り豊かな世界は、細部に至るまで設定したプログラム、君達風に言えば「幻想」だよ」

 そんな説明をしていると、彼は妙な質問をしてきた。

「辛くはないのか、こんな黒い世界にいて」

「……? まあ、手を取り合って発達してきた君たち人類からすれば、そう見えるかもね。でもね、一度も辛いとは思ったことはないよ。さてあらためて、ようこそ「地球」へ。歓迎するよ」

 知性体の力を実感しながら、彼を初めての友とした。

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