第29話 体育祭【騎馬戦】
借り物競争は想像以上に熾烈な争いを繰り広げていて、皆が右往左往しながら会場を動き回っていたから大変そうだった。
奈々の奇抜すぎるお題に散々振り回されたあげく、順位を落としてしまったクラスが多々あったみたいで恐ろしい。
千里はグラサンをかけた人を探していたみたいだけど、近くで応援していた雅也が連行されていた。
心なしか良さげな雰囲気を醸し出していた気がする。
午後の部にはもう突入しているため、残すところ騎馬戦とスウェーデンリレーだけとなってしまった。
現在の総合順位は五位だ。
やはり三年生が上位を占めていて力の差をヒシヒシと感じている、先輩強し。
だがここから巻き返すことは可能である。
何が起こるか分からないのがスポーツの醍醐味、まずは騎馬戦で勝利を掴もう。
今日に関しては雅也も相当に気合いが入っているようだ。
「練習通りに全て出し切ればいけるぞ!」
『E組の鼻っ柱へし折ってやろうぜ』
「っしゃぁ〜行くぜ〜〜!!」
近くで玲奈も熱い声援を送ってくれた。
「みんながんば〜! 応援してるよ〜!」
玲奈に背中を押されながら準備に取り掛かる。
騎馬戦は五人一組で行われる競技であり、チームの騎手役が被っている帽子を奪われると脱落となる。
騎手役の選手が落下しても脱落となるため、下で支える四人の体力も必須となってくるのだ。
そして、暑苦しくも勇敢な男たちの死闘が始まった。
俺は最も重要な騎手役を任されている。
「ちょ、雅也、お前ら気合い入りすぎて移動速度早すぎ! ぶつからないように調整してくれよ!」
「そこら辺は練習通りにやるから心配すんな! それより見ろよ、E組の騎手が天童の野郎だ」
「アイツには煮湯を飲まされてるからな。ここでまた負かしてやろうぜ!」
五人は方向転換して、宿敵である天童和貴の所属するE組の騎馬隊へと突っ込んでいく。
奴らも考えていることは同じようで、逃げることなくこちらに向かってきている。
『てめぇにだけは絶対に負けんぞ。積年の恨み、ここで晴らさせてもらう』
「へっ、また貶めてやるから覚悟しやがれ!」
『調子に乗りやがって糞が!』
両者の騎馬隊は完全に接触した。
天童は俺よりも身長が高いから手を最大限に伸ばさないと帽子を奪うのが難しい。
わちゃわちゃと手を動かしつつ牽制をしながら気を伺う。
敵も必死で手を伸ばし、ギラギラとした目付きで俺の帽子を狙ってくる。
攻撃をしかければこちらの防御が手薄になるため、支える四人との連携が必要不可欠である。
「一旦下がろう!」
「はいよ。次で決めるか」
「ああ、少しスピード出してすれ違いざまを狙ってみるわ」
「それいいかもな。振り落とされないように力入れて踏ん張れよ!」
「任せろ!」
俺たちは天童率いるE組のサイドを目指して突撃をはかった。
敵は真っ直ぐに向かってこない俺たちの行動を読めないでいるみたいだ。
俺は手に力を込めて高い位置に存在する天童の帽子に掴みかかり、一瞬ではたき落とした。
「よっしゃ、瞬発力は俺の方が上だったな。これで二戦二勝だ、ざまぁ見やがれってんだ!」
『くそが、油断したぜ』
「あばよっ、三下!」
『貴様ぁ……覚えとけよ!』
呆気に取られている天童を尻目に、別のクラスを標的に定めて勝負を仕掛けていった。
次々と相手チームの帽子を奪い取っていき、残るチームは残り一クラスとなった。
まさかここまで順調にいくとは思いもしなかったが、ここを突破さえすれば一位入賞である。
相手チームは意外にも一年生のクラスで、野球部と思われるガタイのいいメンツで構成されていた。
「強敵だな」
「二年と三年を薙ぎ倒してここまで残ってるのがいい証拠だ」
「力負けしないように少し撹乱しながら取りにいこう」
「おっけ、下は任せとけ」
玲奈のはっきりとした声援が聞こえているから、俺のモチベーションは高い、そして体力もまだ充分に残っている。
だが下で支える雅也たちは少し限界が近そうだ。
早いとこ決着を着けないと体力が持ちそうにないな。
俺たちは相手が少しだけバランスを崩したところを見逃さなかった。
「「「「「今だ!!!」」」」」
「うぉぉぉぉぉおお!」
結果、最後まで残った俺たちは完全に勝利を果たして一位となった。
「マジで勝てると思わなかった」
「俺らもやればできるじゃん!」
「なんか凄まじい達成感があるのは俺だけか?」
「隼人だけじゃなくて俺もそう思ってるぜ!」
『『『俺たちもだ!』』』
こうして男達の戦いは幕を閉じた
玲奈が笑顔を振り撒きながら駆け寄って来るのが分かった。
「みんなおめでとう!!」
「何とか勝てたぞ!」
「うんうん! みんなすごくカッコよかったよ! まさに男同士の戦いって感じだった!」
「俺たちが団結すればこんなもんよ!」
「次はクラス全員が団結しないとだからね。隼人くん体力大丈夫そ?」
「楽勝……て訳じゃないけどな。だけど気合いは充分にあるから根性で乗り切る!」
「ハハっ、最後も頑張ろうね♪」
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