第28話 体育祭【借り物競争〜玲奈視点〜】



————霧島玲奈視点



「二人三脚、あっという間に終わっちゃったな」


 楽しい時間は簡単に過ぎ去ってしまう。


 だけど、あんなに一つのことに必死になって取り組んで楽しめたのは、間違いなく隼人くんが近くにいてくれたからだと思ってる。


 隼人くんが先導を切って私を引っ張ってくれる男らしい姿が本当にカッコ良くて、改めて惚れてしまいました!


 一つ怖いことというか懸念点があるとするならば、体育祭という大舞台では色んな女の子を見ることになるのだから、隼人くんだって男の子だし他の女子に惹かれることだってあるはず。


 千里ちゃんだってそう、今でも隼人くんのことを諦めてないって、一緒にいる私が感じるほどに伝わってくるのだから。


「恋愛は一筋縄じゃいかないのは、私も嫌と言うほどに分かっているつもり。自分の性癖に忠実になり過ぎて裸を見せてるだけじゃ、ただの欲求不満な嫌らしい女って思われちゃうでしょ?」


 体も勿論見て欲しい、何ならもっと全身を舐め回すように長時間に渡って見てくれたって構わないと思ってる。


 隼人君が望むなら……全裸にだってなってやる、他の人には絶対に見せることはないけどね。


 ……ただそれだけじゃなくて、今日は私の汗を流しながら走る頑張りも目に焼き付けてほしい。


「そろそろ私の番だね」


 次に私が出る種目は借り物競争。


 二人三脚ほど難しさはないけれど、拾ったカードによっては無理難題を押し付けられて会場中を探し回らなければいけない可能性もある。


 足の速さだけではなく人脈とかコミュニケーション能力も必要だし、運要素も非常に大きい要素になってるから、こればっかりは神頼みになってしまうよね。


 千里ちゃんとは同じクラスで同じチームだから競い合うことはできないけど、私が頑張って一位で走り抜けてバトンを渡してあげれば有利に戦況が傾く。


「千里ちゃん、頑張ろーね!」

「玲奈の二人三脚カッコよかったし羨ましかった……アタシも負けてらんないわ! だからこそ、お互い全力で楽しんで勝っちゃおっか!」

「そだね! 私たちのすごさを見せ付けちゃお」


 意気込んではみたけれど、私はトップバッターだから責任重大なの。


 けどだからといって重く考える必要はない、最大限に楽しんで結果を出すことが大事なんだからね!


「お昼も取って空腹感も満たされて体力は元通りに復活したかな。これでいつでもいけるね!」


 例に漏れずピストルの合図と共に借り物競争、もとい借り物リレーが開始され、一斉に対戦相手と共にスタートが切られた。


 二つ右側のレーンで走ってるのって……寧々ちゃん?


 寧々ちゃんはあまり走りが得意なイメージがなかったのだけど、見た感じ私よりも足が速い気がするのは気のせいかな。


 隼人くんが気にかけてくれている女の子。


 守ってあげたくなってしまう、そんな気持ちに私ですらさせられてしまうのだから、ちょっと羨ましい気持ちもあるんだ。


 だからこそ、寧々ちゃんのこういうギャップにあてられてしまう可能性だって否めない。


「寧々ちゃん負けないよ!」

「あっ、霧島さん。はい、わたしも……負けません!」


 カードが落ちている地点までは単純に足が速ければ速いほど先に到着できるから、より有利になるんだ。


「ここで差を付けられるわけにはいかないね」


 私は持ち前の運動センスで何とか喰らいつく。


 そしてカードが落ちている場所へと到達したのだけれど、結構な枚数が散らばっていて、体育委員の人たちの巧妙さが伺える。


 色んなアイデアを絞り出して面白おかしくしようって魂胆だと思うし、奈々ちゃんの性格からして突拍子もないネタを入れ込んできていると簡単に予想できる。


「考えても仕方ないね。直感を信じて……できるだけ簡単な物にしてください!」


 私は真ん中のカードを選んだ。


「えっ!!??」


(ちょっと待って待って! 借り物ってモノ・・だけじゃなくても対象なんて聞いてないよ!)


 借りなきゃいけないモノは……。


『好きな人❤︎』


(つまりは、自分が好意を抱いている男性を連れてきてバトンを渡すまで走り切るってことでしょ?)


 人を連れてくるだけでもかなりの難易度なのに好きな人って……無理難題どころか一番きてほしくないお題に当たっちゃったよ。


 もちろん迷うことなくあの人しかいないのだけど……これって私が大好きなことがバレちゃって気まずい感じになるパターンじゃ……。


(だけどだけど、この場を借りてもう思い切って伝えちゃってもいいのかもしれないし……待って、どうしようどうしようどうしよう)


 立ち止まっている私を見てみんなが心配そうにしてるみたい。


 分かった。


 上手く誤魔化そう。


 今はまだその時じゃないんだ。


 私は隼人くんの元に駆け寄って手を掴んで走った。


 さっきは隼人くんに先導される形で引っ張ってもらったけれど、今度は私が手を引っ張って連れていった。


「ちょ、どうした玲奈?!」

「後で説明するから一緒に走って」

「お、おぅ!」


 私が考え込んでいたこともあってか一位でバトンを渡すことはできなかったけど、また隼人くんと二人で走れて幸せを感じていた。


「はぁはぁ、いきなり走り出すんだから驚いたよ。紙になんて書かれてたんだ?」

「ゴメンゴメン! 隣の席の人・・・・・って書かれてたから、隼人くんしかいないじゃん!」

「なるほどね、窓際だから俺しかいないわな!」

「ハハハっ……」


 隼人くんってほんとに鈍感なんだなって思っちゃったけど、そういうところが素直で真面目で可愛くて好きなんだろうなぁ。


 そして頑張った私に対し、隼人くんはさり気なく囁いてくれた。


(ご褒美に頭を撫でてあげよう。うりゃ!)

(はぅぅ〜)


 ヤバっ変な声出しちゃった。


 ……気持ちいい。

 ……嬉しい。

 ……最高すぎる。


 こないだの放課後にスカートの中身を見せちゃったあの快感を超えているのはなんでだろう。


 れられたことは何回かあるし、私自身で隼人くんにれにいったことだってある。


 大きな感情の変化……いいえ、私の異常な性癖が更に別の方向にシフトチェンジしたと実感していた。


(もう私は物足りなくなっている)


 体育祭という特殊で特別な環境下で撫でられたことによって、見られる・・・・だけじゃ満足できそうにない。


 二人三脚で肩をお互いに支え合って体をくっ付けてた時は必死だったから自分でも分からなかったけど、あの時にはもう既に覚醒していたのかもしれない。



触れて欲しい・・・・・・……って』



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