第9話 下校中でも見られたい



 まだ夏の季節には程遠いのだが、気持ちの良い汗をかけて変な達成感を味わっていた。


 今まで体育の授業を真面目に受けていなかった俺だったが、カッコいい姿を見せようと努力している自分がいる。


 久しぶりに本気で走ったから疲れたけど、充実した時間になった。


 全員分の五十メートル測定が終わり、残り数種目の測定も滞りなく済ませて校内へと戻っていく。


「隼人君、お疲れー」

「めっちゃ頑張ってたじゃん」

「頑張り過ぎて化粧落ちたかも」

「スッピン見てあげよっか?」

「今は汗ダラダラであんま綺麗じゃないから、また今度見せてあげるね♪」

「楽しみにしてる!」


 既に化粧がほとんど落ちちゃってるように見えるけど、元々が最強過ぎるのであまり変わらない気がする。


 玲奈を含む数名のクラスメートと共に、鬼塚先生の愚痴を言いながら、和気あいあいと歩く。


 下駄箱で靴を履き替えて階段を登り、二年生の教室がある廊下に着いたのだが……何だか嫌な予感がしてきた。


 教室前の廊下を歩いていると、俺を睨みつけてくる不快な視線を感じて振り向いた。


『隼人久しぶりじゃん』


 周りの人間が離れていく中、俺は面倒くさそうに返答した。


「おぅ、久しぶり」

『最近どうなんよ』

「どうって何が?」

『女だよ。お、ん、な!』

「別に何も変わってないよ。相変わらず独り身だからな」


 俺はその言葉を最後に、逃げる様に教室へと入った。


 コイツは学年でもかなりの有名人なのだが、俺は大が付くほどに嫌いな相手だ。


 しばらく関わっていなかったが、急に話しかけてくるとは……全く理由が分からない上に、俺に対してガンを飛ばしてきている。


 奴と揉めた事なんてないし、そもそも関わり合いを持ちたくないから避けていた。


 しばらく廊下をウロウロして落ち着きがない様子を見せていた男だったが、ポケットに手を突っ込みながら舌打ちをして去っていった。


 面倒な人間に目を付けられた可能性もあるが、今は考えないでおこう。



 ◆◇◆



 そして下校の時刻となった。


 俺はいつも通りに帰宅の準備を済ませて帰ろうとすると、突然後ろからボソっと囁かれた。


(校門前で待ってて)

(今日は友達と一緒に帰らないの?)

(うん。隼人君と一緒に帰る)

(分かった。待ってるね)


 スクールバックを片手に、サッと教室を後にして校門の近くへと足を運ぶ。


 次々と帰路に着く生徒達を物色して、しらみつぶしに玲奈を探す。


「来ないな。何かあったのかな?」


 ……。


「だーれだ?!」

「わっ……?!」


 思わず変な声が漏れ出てしまった。


 いきなり両目を目隠しされて真っ暗闇になり、背中の辺りに経験したことのない弾力を感じた。


 玲奈は俺よりも身長が低いから、無自覚に爪先立ちして体を押し付けている。


「その声は……玲奈だな!」

「正解」

「いきなりだから驚いたよ」

「隼人君、体がピクってなってた」


 体がくっ付き過ぎているから、心臓のバクバクが伝わってしまいそうで恥ずかしい。


 おっぱいの感触が背中から徐々に離れていき、俺の心拍数は正常値へと戻っていった。


 校舎からも近いので、通りすがる人に結構見られているが……まあこのくらいは友達同士でもやるから気にしないでおく。




 学校を離れて帰り道を二人で歩く。


 自宅の方向が違うのでそこまで長く一緒にいられないが、短い時間でもしっかり堪能したいと思う。


 玲奈と知り合ってから初めて一緒に下校をしたけど、カップルってこんな感じなのかと羨ましくなってきた。


 元々彼女が欲しいって願望はあったけど、好きな人がいなかったからか、余り積極的に動いてはこなかった。


 だけど、今は本気で玲奈と付き合いたいと思うようになっていて、ぶっちゃけた話、もう好きになっている。


 公園では振られた感じになっちゃったから、諦めずに見続けてあげればいつかは……。


 そんなことを考えながら歩いていると、玲奈が自分の髪を指差して、誘うように聞いてきた。


「見て見て。私の髪……どうかな」

「めっちゃ綺麗で見惚れちゃってる」

「嬉しいな。いつも同じだと飽きちゃうから、さっき髪下ろしてきたんだ」

「下ろしたの初めて見たかも」


 玲奈の髪が吹き抜ける風でなびいており、今までにない魅力的な美しさを醸し出している。


 髪色は明るめの茶髪ではあるが、毛先まで一切傷んでいる箇所はなく、クセもない綺麗なストレートだ。


 玲奈は俺を誘導して近くのベンチに座り始めた。


 周りには大きな木が何本か立っているので、周りに気付かれ辛い。


「こっちの方が見やすいよね?」

「玲奈はほんとに見て欲しがりだな」

「うん。私が満足するまでお願い……」

「任せて」


 学校ではしばらく控えめだったから心配してたけど、杞憂だったみたいだな。


「男の子ってうなじが好きって聞くけど、隼人君はどうなのかな?」

「めっちゃ好き」

「じゃあ後ろから見て」


 俺は後ろに回り込んで髪を退かすのをひたすら待っていた。


 玲奈の手が後頭部の下の生え際に添えられて、ジリジリと髪を持ち上げていく。


 俺の感情を揺さぶるかの様に、焦らしに焦らしてくるから待ちきれない。


 いつも髪を可愛く縛っているから頸が珍しい訳ではないのだが、隠れている所から見せられるのが最高なのだ。


 ついに頸の解禁である。


 首上から首下まで綺麗にムダ毛が処理されており、生え際フェチの俺を頸の波動が襲いかかる。


「後ろから見られてるって考えると……昂ってくるの」

「ずっと見てるから安心して」

「気持ち良すぎて耐えられない」

「ぐっ、何て口撃力……」


 触らないでここまで昇天してるから、ボディタッチしたらどうなってしまうのだろう……いつか触らせてくれるのかな。


 限界に達した玲奈は満足し切った表情を浮かべながら微笑み、納得した様子で歩き始めた。


 そして何故か俺のアパートまで付いてくるのだった。



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