第8話 走る姿を見られたい
俺は過去に女性の乳首を見たことがある。
見たどころか吸っていたことがある。
女性のおっぱいを鷲掴みにして舐め回せる唯一の期間、それが赤ちゃん時代の僅かな時間だ。
そんな母性溢れる女性の先端を……俺は現在進行形で見てしまっている。
今回は八秒だ。
みんな自分の着替えに必死だから気付いていないはず、しっかりと隠せている。
忙しい俺に対して玲奈は質問する。
(ブラウスの上からじゃ色は分からないと思うけど……どうかな?)
(う、うん。こんなに……た、勃つんだ)
(隼人君と同じで、私も興奮しちゃってるみたい)
(俺もヤバいかも……)
(あぁ、ほんと気持ちい……快感だよ)
次々と繰り出される口撃に、俺の理性は崩壊寸前で下腹部のタワーも限界突破している。
背筋を敢えて伸ばしていることから、ある程度の形が分かってしまいリアル感が増長していた。
体は嘘を付かないと言うが、玲奈の見られたい衝動を埋めたことで、満足度が頂点に達してしまったのだろう。
玲奈が天井を見上げてるんだけど……眼が、もう何と言うか……逝っちゃってます。
そして俺は刹那の八秒間を思う存分堪能し、その瞬間だけ目を逸らさずにしっかりと見てあげた。
『キーンコーンカーンコーン』
授業開始のチャイムが鳴り響く。
鐘の音と同時に、玲奈は体操服を上から着て満足そうな表情を浮かべて校庭に行ってしまった。
呆然と立ち尽くして外の景色を眺めていると、前の席の雅也が振り返って声をかけてきた。
「お前らってほんとに出来てんの?」
「ん? どゆこと?」
「付き合ってんのかって」
「いやいや、雅也だって結構一緒に話してんだから分かるっしょ。付き合ってないよ」
「外でイチャイチャしてたって聞いたけど……」
「事実無根だ!」
一週間前、バイト帰りの公園で誰かに見られてたってことなのか……全く気付かなかった。
側から見れば間違いなくカップルにしか見えないし、帰りも途中まで一緒に帰ってたから勘違いされた可能性が高い。
イチャイチャって表現は些か語弊があるが、淫らな格好をしていたシーンを目撃されてたんならマズイな。
あまり変な噂が広まらなければいいが……。
「早く校庭に行かないと体育教師に怒鳴られるぞ」
「それは勘弁だ」
授業中だということをすっかり忘れていた俺は、雅也と走って校庭へと向かった。
学校のグラウンドでは既に生徒が準備運動をしているが、バレないように何食わぬ顔で混ざる。
鬼塚先生にはバレていない。
朝の校門前で、いつも竹刀を持って立っている時代送れの熱血教師だ。
この人に目を付けられると厄介だってのがもっぱらの噂なので、遅刻もなるべくしない様に心掛けている。
近くの生徒に目配せして上手く誤魔化してもらい、何とか事なきを得た。
やはり持つべきは友人、こういう時に公平中立である俺の本領発揮である。
前の方では玲奈が準備運動の真っ最中だ。
布面積の小さい体操服姿を見るのは初めてだから、改めてスタイルの良さに惚れ惚れしてしまう。
ちなみに今日の髪型はポニーテールで、毎回髪型を変えているのは、俺を飽きさせない為の工夫なのだろうか。
結んだ髪がフラフラと左右に移動するから、釣られてしまって……おっと、凝視してたのがバレてしまったな。
舌を出して軽くウィンクしてきたので、周りに悟られない様に手をグッドの形にして反応を返してあげた。
見てるよ……ってな感じで。
◆
体育の必修科目はダンスと武道。
加えて選択形式で、器械運動、陸上競技、球技、そして水泳から選ぶのだが、今日は体力測定の内の一つ、五十メートル走の記録を測るために皆が校庭へと集まっている。
ちなみに俺は帰宅部だが、中学時代は野球をやっていたので走りには自身がある。
毎日部活で走り込みをやらされていたので体力も人並み以上にはあるのだ。
最近はゲームばかりやって衰えてはいるが、それでも中の上くらいまではイケるはず。
男子と女子に別れてから、体育委員の生徒がそれぞれストップウォッチでタイムを計測する。
玲奈って足速いのかな。
昔ソフトテニスをやってたみたいだけど。
色んな想像を頭で思い描いていると、玲奈がすれ違いざまに、ボソッと囁いた。
(見ててね。私の走り)
(もちろん! 応援してるから頑張って)
またいつもとは違ったヤル気に満ちた表情をしていて、本当の意味で真剣に見てあげようと思った。
クラスの皆が一人ずつ走っていき、いよいよ玲奈の出番が回ってくる。
今の玲奈は、さっきの上機嫌だった玲奈とはかけ離れていて、目付きは真剣その物だ。
スタート位置で走る体勢を取り……。
計測係の掛け声と共に、寸分違わない綺麗なスタートダッシュを見せてくれた。
彼女のグラウンドを駆ける姿はまさしくアスリートのそれであり、凄いスピードでゴールに到達してしまった。
俺はスタートからゴールまで一度も目を離さずに見ていたが、今回ばかりは、可愛いよりもカッコいいと表現するべきだろう。
胸の辺りがユサユサと揺れていたが、今の俺は不純な気持ちなどほとんどなく、只々玲奈の走りを目に焼き付けていた。
走り終えた後は少々息を切らして膝に手を付いていたが、すぐにこちらに向かって歩いてくる。
額や首筋には若干の汗が滲んでいた。
今日は玲奈の色んな顔が見れて嬉しい。
「お疲れ様!」
「速かったでしょ?」
「多分八秒切れたんじゃね?」
「隼人君より速いかもね♪」
「絶対負けねー!」
この後、俺が五十メートルを全力で走る間、玲奈は誰に隠すわけでもなく声を出して応援してくれた。
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