第6話 心の内を見られたい



 見えそうで見えない。


 このシチュエーションが好きな人は多いと思っている……斯く言う俺もその内の一人だ。


 ワイシャツのボタンは一つ残らず全て外されているが、胸部の全てが晒されることはなかった。


 おっぱいがデカいのでギリギリではあるが、真ん中の部分がパックリと開いて横乳と綺麗なおへそが見えているだけなので、俺は失神せずに済んでいる。


「これ以上やったら心臓発作で大変なことになりそうだから、今日はここまでだね」

「うん……よ、余裕だったけどな……!」


 見苦しい言い訳ではあるのだが、良い社会勉強になったと自分に言い聞かせた。


 破廉恥な格好で徘徊していると警察に連行されかねないので、服をしっかり着るように命じる。


 渋々とブレザーを羽織って露出魔は静かになった。


 既に辺りは夜の景色に包まれて、俺たちを照らしているのは街灯の明かりだけだ。


 何だかんだで結構長い間この公園に居続けた気がするし、時間の流れを忘れるくらいに貴重で不思議な体験だった。


「もう遅いから帰ろうか」

「うん、一緒に帰ろ♪」

「そういえば玲奈って家近いの?」

「ここから歩いて五分くらいかなぁ」

「多分俺のアパートと住んでる場所近いかもね」

「それならいつでも気軽に私を見に来れるじゃん!」


 五分ってことは、俺の住むアパートとそう離れてない距離に住んでいる可能性が高そうだ。


 玲奈との接点を考えても、都合の良い偶然が重なり過ぎて運命的な何かを感じている。


 ただ、学校以外でも見られたい症候群を発動させるのは俺の心臓が持たないから勘弁してくれぇぇ……!




 そして、俺たちは公園から離れた。


 遠過ぎず近過ぎずの距離感で帰り道を歩く。


 ふと、今の俺たちってどういう関係なんだろうと考えた。


 友達と言うには少々度が過ぎた行為を繰り返してる訳だし、恋人かと言われればそれもまた違う気がする。


 高校では隣の席に座るクラスメートの美少女。


 裏ではパンツやおっぱいを平然と見せてくる美少女。


 ……うーむ、分からない。


 特殊過ぎる性癖だとは理解しているが、そんな玲奈にだって恋愛感情くらいはあるだろうし。


 だから、今度は俺が囁いてみた。


「俺たちってどういう関係なんだろーな」


 少し間を置いてから玲奈が反応を示す。


「どうなんだろうね」

「……」

「私の心を覗いてみればいいんじゃないかな」

「玲奈の心……?」

「体だけじゃなくて、心の内も見て欲しいかも」

「ちょっとよく分からない」

「……気にしなくていいよ」


 結局はぐらかされた。


 俺は言葉の駆け引きが苦手だ。


 恋愛経験ゼロだからか、全く女心が理解出来ていない自分に腹が立つぜ。


 今はまだ物理的なことしか見えないけど、いつかは玲奈の心の内を見る事が出来るようになるのかな。


 まあ、程々に期待しておこう。


「もぉ辛気臭い顔しちゃって、明日からまた見てもらうんだから元気出して!」

「お手柔らかによろしく〜」


 相変わらず気持ちの切り替えが早いのだが……そういう所も玲奈の魅力の一つだ。


 その後も二人で軽く会話を交えながら仲良く帰宅した。



 ◆◇◆



 ——霧島玲奈視点



 私は産まれた時から承認欲求が強い人間で、誰かに認めてもらわないと気が済まなかった。


 お父さんは二歳の頃に蒸発したので顔も名前も知らないし、興味もない。


 一方のお母さんは経済的にも厳しい中で、女手一つで私を育ててくれた大恩人で一番尊敬している人。


 小学生の頃に好きな人が出来た時、その男の子に振り向いて欲しくて、色んな方法でアプローチをしたけれど、結局振られちゃった。


 そんな玉砕経験を持った私だったけど、中学三年生の頃、初めて恋人が出来た。


 その人は毎日可愛い可愛いって言ってくれて、私って愛されてるんだ……とか、恥ずかしながら思ってたりしてたっけ。


 ……で、結論から言うと、その両思いだと信じていた相手にあっさり裏切られた。


 私を可愛いだの大好きだの言う傍で、彼は他の女とイチャイチャしながら唇を交わしてて……悲しかったし、めちゃくちゃムカついた。


 ——私だけを見てくれない事実を許せない。

 ——見て欲しい見て欲しい見て欲しい。

 ——私の全てを見て欲しい。


 それからと言うもの、私の見られる事への執着心はより一層膨れ上がり、見られる事で快感を覚えるようになっていた。


 転校する前の高校で、私の性癖を知ってしまった人はみんな離れちゃったよ。


 気持ち悪いとか、頭がおかしいとか、淫乱女とか散々酷いことを言われたかな。


 転校先では上手く自分を隠していたので楽しくワイワイやれていて、何人かの男子に告白もされたけど…………迷わず全部断った。


 どうせ私の本性を知ったら見てくれなくなるのは分かりきっているから。


 隼人君にスカートの中を見られた瞬間、久しぶりに快感を覚えてしまって、凝り固まってた何かが一気に放出された。


 次の日も、隼人君はそんな私を馬鹿にしたりはしなくて、ちゃんと私のことを受け入れて見てくれたので、本当に心の底から嬉しかった。


 まだ出会ってから日も浅いにも拘らず、こんな人いるんだなって、単純な私は思っちゃったよ。


 さっき隼人君がボソッと私との関係性を呟いた時、『恋人だよ』ってハッキリと言いたかったけど……それは辞めた。


 本当の恋人になったら多分、彼との関係性が崩れて私を見てくれなくなると思うから。


 嫌われるのが怖い、見放されるのが怖い。


 ……それだけは絶対に嫌だ。


 隼人くん、相当面倒臭い女でごめんね。


 だから私の本当の気持ちは、心の内側に閉まっておこうと思う。


 でもいつか、その時が訪れたら…………………勇気を出して『好き』って囁いてみようかな。



 ——END



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