第15話 ずっと傍に

紡希が話し終えるとしばらくの間、沈黙が続く。

「紡希ちゃん……ごめんなさいね。」

と蒼は謝る。

「え?」

紡希は急に謝られて何のことだか分からず驚く。

「ごめんね、美月さん達のこと思い出させてしまって……」

それを聞いてようやく理解したようだ。だが、そんなことで謝る必要などないと悟ったのか優しい表情で言う。

「いいんです、大丈夫ですから心配しないで下さい。」

「そう……」

と蒼は呟く。

「それで紡希ちゃん、これからどうするの?」

と蒼は聞く。

「私はまだあの人達に見つかるわけにはいかないので何とかして普様と二人で生きれる手段を見つけます。」

と答える紡希。

「それだと追われる身のままでしょ…何とかしないと」

と蒼は考えている様子。

「追ってきている連中を潰せばいいんじゃないか。」

と律那が言う。

「それができたらいいんだがな。毎回同じ連中に追われているのか?」

猛が紡希に問う。

「わかりません。」

と紡希は答える。

「複数の組織が普ちゃんを狙っている可能性を考えた方がよさそうね。」

と蒼が言う。

「そうだな。」猛も同意する。

「とりあえず、五月雨さんにはもうしばらく安静にしてもらう。その間、普さんも地球防衛軍の建物内にいてもらう。俺は総司令に他の隊の手を借りれないか頼んでみる。それでいいか。」

と猛は全員に確認する。

「ええ、よろしくね」

と蒼は言う。

「わかりました……」

紡希は不安を抱えながらも了承する。

「安心しろここを襲撃されることはない。それじゃあ、今日はこれで解散だ。」

猛がそう言うと皆部屋を出るため立ち上がる。

「今日は本当にありがとうございました。」

と紡希は深々とお辞儀をする。

「そんな、お礼なんていいわ。むしろ謝らないといけないのはこちらの方なんだから……」

蒼が言う。

「いえ、もう昔の話ですから気になさらないで下さい。」

と紡希は言う。

「そう……でも何か困ったことがあったらすぐに言ってね。」

と蒼は言ってくれる。

「はい、ありがとうございます……」

お礼を言い終えると猛達は部屋を出て行き紡希と普だけになる。

「普様、これからどうしましょうか。」

と紡希は尋ねる。だが普は何も答えてくれない。

「普様?」

「お姉ちゃん……」

ようやく口を開く普だったがその声はとても弱々しいものだった。

「普様、その呼び方は…」

と普の手を握る。すると普が泣きながら言う。

「私……怖いよ……」

そんな普を安心させるように優しく抱きしめ頭を撫でる。そして耳元で囁くように言う。

「大丈夫ですから安心して下さいね。必ず護りきりますから。」

紡希の目は覚悟に満ちていた。

その日の夜、家に帰って来ていた空はソファーで眠ってしまっていた。

テーブルにはイリアと撮った写真が置いてあった。

お風呂からあがったイリアは寝ている空を見つけると隣に座る。

イリアはじっと空を見つめた後、空の膝を枕にして寝ころぶとそのまま寝てしまった。

___

(ここは…)

イリアが目を開けると草原が広がっている。そして大きな木がそびえ立っている。

その下には空に似た青年がいる。

(また同じ景色…)

イリアがそんなことを思っていると青年が話しかけてくる。

「イリア大丈夫?」

その声は聞き覚えがあった。忘れたくても忘れられない声。だが、思い出せない。

(なんでだろう)

イリアは不思議に思ったが気にせず答える。

「うん大丈夫だよ」とイリアが言うと青年は安心したように微笑む。そして言う。

『良かった』と……

「ほらイリア、いつものようにお話しよう。」

青年はイリアの手を取り木の下へと連れていく。

青年はあぐらをかくと自分の足をトントンと叩いてイリアを見る。

イリアはその上に足を延ばして座った。

「これで話せるね。」

青年は嬉しそうに言う。イリアもつられて笑顔になる。

青年は今日あったことを話しだしイリアはただそれを聞いている。

だけど、それが心地よく永遠と聞いていたいと思う。

「この毎日がずっと続けば良いのに。」

とイリアは言った。

「どうしたのいきなり?イリア本当は体調悪い?」

青年は心配そうな顔をする。イリアは慌てて首を横に振って否定する。

「違うよ。ただそう思っただけ」

と言うと安心したようで微笑んでくれる。その表情がとても眩しく見えて直視できない。

『そっか、なら良いんだ』と言ってまた話しだす青年。

青年がイリアの頭を撫でる。

イリアはそれを嬉しそうに受け入れる。

そんな幸せな時間が続くと思っていた。だけどそれは長くは続かない……

(あれ?)

急に視界にノイズが走る、そして徐々に暗くなっていく……

「イリア!しっかりして!」と青年の声がする。だがその声は次第に聞こえなくなる。

そしてとうとう視界が真っ暗になった。

「イリア!イリア!」

自分を呼ぶ声でイリアは目を開ける。

「よかった。生きてた…」

青年は安堵で胸をなでおろしているが全身傷だらけで頭からは血を流している。

焼け野原、死臭、6枚の翼を持つ傷だらけの空似の青年。

(まただ…またこの景色。いつもここで目が覚める。)

イリアは夢が覚めるだろうと思った。だが、違った。

「大丈夫?立てる?」

青年はイリアに手を差し伸べる。

イリアはその手を恐る恐る握るとゆっくりと立ち上がる。

(初めて見る…)

「待ってて……すぐ終わるから」

青年はそういうと立ち上がり遠くを見つめている。

イリアもそちらを見るが何も見えない、ただ暗い闇に翼が生えている何かがあるだけだ。

「僕から離れて。」

青年はそう言って右手を横に突き出すと手のひらから無数の光の矢が放たれる。

翼の生えた何かはそれをいとも簡単によける……そして攻撃に転じる。

青年の首めがけて鋭い爪で切り裂こうとする、だがその一撃は空を切るだけで終わった。

(速い!)

青年はそれを間一髪でかわすと距離をとる。そしてまた光の矢を放つが今度は翼の生えた何かは避けること無くそのまま受ける。すると光に弾かれるようにして翼の生えた何かが吹っ飛ぶ。

「本当に頑丈だな……」

イリアは恐怖で震えているのが分かる。青年はそれを感じ取り言う。

「僕は大丈夫、だから少しだけ目をつぶっててね」

『うん』と返事をする間もなく瞼が閉じてくる……目を閉じる瞬間に青年が血まみれになりながら戦っている姿が見えた……その後ろ姿はとても悲しそうで今にも消えてしまいそうだった。

(嫌だ、死なないで、ずっと傍にいて!私の前から消えないで!)

___

「空!」

「あだっ」

イリアは飛び起きた反動で空のおでこに頭突きをしてしまう。

外は日が昇り朝になっていた。

「イリアって意外と石頭なんだね……」とおでこを押さえている空。

だが、イリアの顔を見て慌てる。

イリアは涙を流していた。

「ごめん!石頭って言って。」

慌てた表情をしている空にイリアは首を横に振り

「違う、違うの空は悪くないの。ただ、悪い夢を見ただけ。」

とイリアは言う。

「怖かったねイリア。」

空は膝をポンポンと叩く。

イリアが空の膝に座ると空はイリアの頭を優しく撫でる。

イリアはそれを受け入れてその心地よさに浸る。

「そうめん食べたい。」

「なんでまたいきなり。」

「石頭って言った罰。」

「うっ…ごめんなさい。」

空は素直に謝る。

「仕方ないからそれで許してあげる。」

と言って少しいじわるな笑顔を浮かべるイリア。

空もそれにつられて笑った。

その日の3食すべてがそうめんになったのはまた別のお話。

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