第14話 咲野江家

7月13日:地球防衛軍日本支部の病室

「うーん……」

紡希が目を覚ます。

「紡希!」

と隣で心配していた普が呼びかける。

「普様、ご心配をおかけしました。ところでここは?」

「地球防衛軍日本支部の病室だよ。」

そばにいた空が答える。周りにはイリア、猛、律那、蒼もいた。

「そうですか。ご迷惑をおかけしました。」

と紡希は謝る。

「気にしないでいいよ。それより体は大丈夫?」

空は聞く。

「はい。大丈夫です。お見苦しい所を見せてしまい申し訳ありませんでした。」

と紡希は頭を下げる。

「いや、無事で何よりだ。」

と猛が返す。

「ありがとうございます。それで……あの後どうなったのでしょうか?」

と紡希は質問する。

「僕が連絡してからすぐに駆けつけた蒼さんと律那が運んでくれたんだ。」

と空は説明する。

「そうだったのですね。」

と紡希は納得する。

「蒼さん。」

「わかったわ。紡希さん手を出してもらえる?」

と蒼は紡希に声をかける。

「え?はい。」

と紡希が手を出す。すると、蒼は紡希の手に触れる。

「今、紡希さんの状態を確認したわ。もう万全な状態になってるわ。」

と蒼は説明する。

「本当ですか?」

と紡希は聞く。

「ええ。でも、無理をしたらダメだからね。」

と空が注意する。

「ありがとうございます!」

と紡希は笑顔で答える。

その後、空達は自分たちについて話した後本題に入る。

「それで紡希さん、追われていた理由を聞かせてもらえないかな?」

と空が聞く。

「……」

と紡希は俯く。

「僕たちは君を助けたいんだ。」

と空は続ける。

だが、紡希は口を開こうとしない。

「紡希。話していいと思う。紡希が眠っている間にこの人達の話は聞いたの。この人達は信用できるし何とかしてくれるかもしれない。」

と普が紡希に言う。

「ですが普様…」

「これは命令よ、紡希。」

普の言葉に紡希は折れる。

「わかりました……」

と紡希はゆっくりと話だした。

「咲野江家はご存知ですか?」

と紡希は問う。

「確か京都を中心として医療で栄えていた一族だったか。だが、年々と血筋は減少していき公にはなっていないが10年前に起きた大火災で滅びたと言われている。」

と猛が言った。

「よくご存じで。普様はその咲野江家の最後の生き残りなのです。」

と紡希は続ける。

______

五月雨紡希が咲野江家と出会ったのは18年前。

当時8歳の紡希は家族を殺された。

紡希はなんとか逃げ出したが追われる身となる。

何日も何日も傷だらけになりながら睡眠も食事も無しに走り続けた。

そして、紡希は力尽きて倒れてしまった。

次に目を覚ましたのは知らない家の天井だった。

「おお!目を覚ましたか。よかった……。君は三日三晩も眠っていたんだよ。」

と一人の男性が紡希に声をかけた。

「あの……ここは?」

と紡希は質問する。

「ああ、ごめんね。僕は咲野江家現当主の咲野江春道だ。ここは咲野江家の屋敷だよ。」

と春道は答える。

「咲野江家…咲野江家⁉これはご迷惑をおかけしました。すぐに出ていきます。」

と紡希は驚いてベッドから降りて部屋を出ようとする。

だがその足取りはフラフラだ。

「おっと。」

と春道は紡希を受け止める。

「まだ君は休んでいなさい。」

と春道は優しく言うが紡希は首を横に振る。

「私は追われている身です!ここにいてはご迷惑をおかけします!」

と紡希は言う。しかし、春道は再び優しく声をかける。

「大丈夫さ。ここは安全だ。それに僕は医者だ、君のような子をほっておけないよ。」

と春道は言った後、紡希をベッドに寝かせて医者として傷の手当てをした。

「ありがとうございます。」

と紡希は言う。

「どういたしまして。ところで君の名前を教えてくれるかい?」

と春道は言った後、名前を尋ねる。

「…五月雨…紡希。」

と少しの沈黙の後紡希は答えた。

「紡希ちゃんね。そうか、良い名前だね。」

と春道は笑顔で褒める。

「あ……ありがとうございます……」

と紡希は答えるが途端に泣き出してしまった。

「おっと。」

「パパとママがぁ。あああああ」

春道は何も言わず聞かずただ背中をさすって慰める。

そこへ一人の女性が少し慌ててやってくる。

「春道さん。鳴き声が聞こえたから心配になって。」

「嫌なことを思い出したみたいなんだ。」

やってきた女性は春道の妻、咲野江美月だ。

「そうなんですか……辛かったでしょう?」

と美月は紡希に声をかける。

だが、紡希の泣き声は止まらない。

美月は紡希を抱きしめ頭を撫でる。

「よしよし。大丈夫だからね。」

しばらく泣いた後、紡希は眠ってしまった。

「泣き疲れて寝ちゃったみたいですね。」

「そうだね。」

と春道は言った後、紡希をベッドに寝かせる。

「この子の親はどうしたのでしょうか?」

と美月は春道に聞くが春道も首を振るだけだった。

「わからない……だが、この子の親に何かあって逃げてきたのだろう。だから、帰る場所がないだのだと思う。」

と春道は続ける。

美月は眠っている紡希の頭を優しく撫でながら少し悲しそうな顔をした。

夜、紡希は目を覚ます。

「紡希ちゃん。よく眠れた?」

と美月が声をかける。

「はい……すみませんずっと眠っていたみたいで……」

と紡希は謝る。

「いいのよ。ゆっくり休んでね。」

と美月は言う。

そこへ春道がやってきた。

「紡希ちゃん、お腹空いてないかい?」

と聞く。

だが、紡希は答えない。

「紡希ちゃん遠慮してくれなくていいわ。」

「……少し空いています……」

と美月に言われて紡希は答えた。

「そうか、なら一緒に食事でもどうだい?」

と春道は言った。

「……はい、ありがとうございます……」

紡希はこくりと頷く。

その日の夕飯は豪勢だった。

紡希が見たこともないような料理が並べられていた。

だが、紡希は手をつけようとしない。

「どうした?食べないのかい?」

と春道が聞く。

「あの……私こんな豪華なもの食べたこと無くて……」

と紡希は言う。

「そうか、なら遠慮せずに食べるといいよ。」

と言って春道は食事を始める。美月もそれに続いて食事を始める。

「いただきます……」

と言って紡希も食事を始める。

「美味しい……」

と紡希は次々と食事を口に運ぶ。

春道と美月はそれを聞いて嬉しそうに笑った。

夕飯を食べ終わった後、春道が言う。

「言えないなら言ってくれなくていいから何があったか教えてくれないかな?」

「えっと…その…」

と紡希は言葉に詰まる。

それを見た美月が助け舟を出す。

「大丈夫よ。この人ならきっとあなたの力になってくれるわ。」

と美月は言った。

その言葉に背中を押された紡希は少しづつ語り始めた。

父、母と三人で暮らしていてある日いきなり現れた知らない人に襲われたこと。

自分を命がけで守って逃がしてくれたこと、でもそいつが追ってきたこと。

全部話した。

春道と美月は最後まで黙って聞いてくれた。

そして、話し終わった後春道が口を開く。

「そうか……大変だっただろうによく頑張ったね。」

と春道は言う。

春道が美月に目配せすると美月は頷く。

「紡希ちゃん。」

「はい……」

「紡希ちゃんが良ければだけどここに住まない?」

「え?」

美月からの唐突な提案に紡希は驚いた。

「紡希ちゃんの本当の親ではないけれど亡くなったあなたの両親はあなたを生かすために逃がした。私と春道さんはその思いに願いに応えたいと思ったの。どう?」

と美月は優しく言う。

「ここに居て良いんですか?」

と紡希は聞き返す。

「ええ、もちろんよ」

「ありがとうございます……」

と涙を流しながら感謝する紡希。そして言葉を続ける。

「でも……私何もできませんし迷惑ばかりかけるかもしれません……」

「大丈夫さ、ゆっくりでいいから出来ることから始めよう。」

そんな紡希に二人は優しく答えるのだった。

その後春道や美月の手伝いをしながら生活するうちに少しずつだが紡希は元気を取り戻していった。

___

紡希が咲野江家に助けられてから7年経ったころ。

美月は新たな命に恵まれる。

「おめでとうございます。美月様、元気な女の子ですよ。」

と助産師は言う。

「あぁ……良かった……」

春道が美月を抱きしめ喜ぶ。

そこへ紡希が入ってくる。

「父上、母上おめでとうございます。」

と紡希は笑顔で祝福した。

「紡希、あなたの妹よ。普、紡希お姉ちゃんよ。」

「普…妹。」

紡希が生まれたての普のその小さい手のひらそっと指に触れると普は紡希の指をぎゅっと握った。

その握られた感触が今まで感じたことの無い幸せを感じさせる。

「可愛い……」

と紡希は呟く。

普には幸せであってほしい。そう願った。

だが、その願いは届かなかった。

普が1歳を迎えて間もないころ悲劇は起きた。

紡希と普が庭で遊んでいるのを春道が見守っていると1人の人物がやってくる。

「こんなところにお客さんだなんて珍しいな。紡希、普と一緒に部屋に戻っておいてくれるかい。」

紡希は頷き普を抱っこして屋敷に入る。

「待たせてしまったね。それで何の用かな?うっ」

と春道は言ったがその瞬間胸から何かが飛び出し血が噴き出てきて春道はその場に倒れる。

「あ……あぁ……」

窓から様子を見ていた紡希が言葉を失う。だが、すぐに冷静になって美月を呼びに行く。

「母上!母上!父上が、父上が!」

と紡希は美月を呼びに行く。

「どうしたの!?」

と慌てて玄関に向かう美月だったが庭に倒れている春道を見て呆然とする。

「そんな……」

春道を殺した人物が迫ってくる。

「母上!」

紡希の声に我に返った美月は

「普と逃げて!」

と紡希に言う。

「母上も!」

その時には遅かった。美月の胸から何かが飛び出し血が噴き出て倒れる。

「母上!」

「い…き…て」

かすれた声で美月は言った後息絶える。

幼い普は何が起こったか理解できていないが恐怖を感じて泣き出す。

「あ……あぁ……」

紡希は過呼吸になる。自分の両親が殺されたあの光景がフラッシュバックする。

「はぁ……はぁ……」

意識が飛びそうになる。だが、普の存在と美月の言葉を思い出し留まる。

「行かなきゃ……逃げなきゃ……」

紡希は震える足を必死に動かして普を抱え何とか屋敷から逃げ出すことができた。

「はぁ……はぁ」

と息を切らしながら走る紡希。

屋敷の方からの建物が焼け焦げる臭いが鼻をつく。

「ううっ」

と吐き気を催しながらも必死に走る。

紡希は山へ、そしてどこかの街の外れまで来て力尽きた。

その後、紡希と普は病院に搬送され一命をとりとめた。

だが、紡希は普を連れて脱走し各地を転々としていった。

後からわかった話だが咲野江家には代々受け継がれる能力【創生心核】【死滅心核】がある。

言わば生と死を操れてしまう能力、普にはそのどちらもが発現していた。

その情報をどこからか手に入れ、普を手に入れようとした者によって行われた襲撃だった。

そしてこの時、2人はまだ追われていたようだが紡希の能力【特性自動発動】、特性【超広範囲感知】【五感強化】【全自動撃墜】が無意識に発動していたおり攻撃は届くことはなかった。

____

ある日、普が紡希に聞いた。

「ねえ、紡希お姉ちゃんは私の何なの?」

「私は…」

紡希は少し間をおいて

「私は五月雨紡希、ただ普様を守る存在です。」

と言った。

紡希の頭からは永遠と両親とあの日の美月の「生きて」が呪いのように離れない。

「必ずお守りします。この命尽きようとも。」

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