センスZEROの地図師 2

ム月 北斗

迷宮迷子:賭博罠編 前

 さて・・・・・・あれからオレ達は、ダンジョンの床をぶち抜いて作った大穴を通り(落ちてか?)、ダンジョンの地下二階へと降り立っていた。

 ダンジョンというのは決まって、大抵は地下へ進むほどおどろおどろしい様相なのだが、意外にも小綺麗・・・・・・というか殺風景だった。

 オレ達が降りた部屋はとても広く、部屋の端っこは暗くなっていて確認が難しいほどだ。唯一シルエットがハッキリと確認できるのは、部屋の四隅に建っている太い柱くらいだ。

 オレは魔法で明かりを灯し、みんなを連れて部屋の中を歩いて調べた。

 部屋を照らすとそこら中に、長椅子が乱雑に置かれているのが分かった。長椅子には毛布のような布が敷かれており、大きな砕けた天使像へと向いていた。教会のようにも思えるその様を見て、薄気味悪さを感じた。

 さらに部屋の中を探索すると、部屋の出入り口と思わしき大きな扉の前に辿り着いた。

 重厚な鋼鉄製の扉で、禍々しい悪魔のような顔があしらわれている。

 ブラは即座に扉を押してみた。が、扉はびくともしない。

「なんだこれ?重いっつーかなんつーか・・・・・・ぜってー開かねえ、って感じだぜ」

 ふむ、罠というよりか何かしらの仕掛けのある扉、といったところか。

 例えば・・・・・・部屋にある本を指定の位置にする、とか。あの乱雑に置かれた長椅子を整列させる、とか。

 こういった仕掛けというのはよくあるものだ。冒険者であれば一度は目を通す冒険者必読の参考書、『ヒザニヤの書』にも書いてある。

 色々と解決策を練っていると、ポケーッとしてたフェノンが紙を渡してきた。気づかないうちに何か書いていたようで、紙にはこう書いてあった。

『罠名:賭博師 ギャンブラー 罠と何かしらのものを賭けて勝負する。敗北した場合はその部屋から七日間出ることが出来ない。また、賭けた物は勝負に勝たない限り奪還できない。この罠と対峙した冒険者、ノッポン氏曰く「失ってもいい物だけを賭けるべし、わたしは持っていた食糧を賭けたせいで七日間、仲間たちからずっと冷たい視線を向けられた。・・・・・・泣いた」』


 ・・・・・・なるほど、恐ろしい罠だな。というか、フェノンが自分から行動したのか?あの、ポケーッとしてる非戦闘員馬車待機勢が?どういう風の吹き回しかは知らんが、こういうことであれば有難いっちゃ有難い。

「さて・・・・・・んで?どうやってその”勝負”とやらを始めることになるんだ?」

 フェノンに聞いてみたが、彼女は首を横に振るだけだった。そこまでは知らんと、はいはいそうですかい。

 その後、オレ達はいろいろ扉にやってみた。

 ブラはもう一度扉を押してみたり、渾身の力を込めた蹴りをお見舞いしてやったが、扉に変化は無かった。

 オレはとりあえず魔法攻撃を当ててみた。しかし結果は同じで、炎も氷も全く効果が無かった。余計な消耗は避けるためにも、それ以上は攻撃をしないことにした。

 そうしたら驚いたことに、フェノンが扉の前に立った。オレは、「お前みたいな戦闘能力皆無の奴に何が出来るってんだ?」と茶化した。するとフェノンは、そこらに落ちていた小さな石ころを、扉に向かって「えいや」と投げつけた。広い部屋に弱弱しい金属音が虚しく響いた・・・・・・

 戻ってきたフェノンは満足げに「むふん」としてみせた。お前はなーんにも出来てないんだが?

 そんなこんなをしていると、順番的にもバンディの番になった。本人曰く元”盗賊”、鍵開けであればちょちょいのちょいであろうがこれは罠の扉だ、持ち前のスキルであっても罠に効果は無いだろう。いや、罠だったら解除できるのか?

「さぁて、そんじゃこのバンディさんが、華麗に扉を開けちゃいますかね」

「やっぱりあれか?罠だから盗賊のスキルで開けられるのか?」

「やってみないと分かんないけど、まぁ任せなさいな」

 片手に持った、鉄製の輪っかに束ねられた数多くの盗賊道具を、器用に指先で回しながら、調子のいい足取りでバンディは扉へと歩いて行った。

 そして扉の前に着き、いざ解除・・・・・・しようとしたその時、扉の悪魔の顔の瞳が怪しく光り、重々しい声が部屋の中に響いた。

「我ガ 眠リヲ 妨ゲルノハ 何者カ―――――」


 その声は空気を伝って部屋全体を震わせた。天井からは、パラパラと埃が落ちてくる程だった。

「今の・・・・・・まさか、その扉か?!」

「でしょーな。見ろよアドネス、扉がまさしく『起動した』って感じだぜ?」

 扉の前にいたバンディは、ゆっくりと後ずさりをしてこちらへと戻ってきた。フェノンはてっきりビビッて後ろに隠れてると思っていたが(どうせ戦闘能力皆無だし)、眼をキラキラと輝かせてまるで、「すげー!かっけー!!」みたいな感じだった。

「我ガ 眠リヲ 妨ゲルノハ 汝ラ カ?」

 扉は重々しい声でオレ達に聞いてきた。

「あぁ、そうだ!この部屋から出て、ダンジョンの奥へと行かなきゃならない!」

「ナラバ―――――」

 扉はそう言うと、少しためて言い放った。

「ナラバ―――――我ト 勝負 シロ―――!!」

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センスZEROの地図師 2 ム月 北斗 @mutsuki_hokuto

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