短編 百パーセント

U.N Owen

第一話



「オレンジジュースってマジで詐欺だよな」


またこいつはバカな事を言い出したと思いながら俺は振り向いた。


「別に悪くない値段じゃねえの」


「果汁が10%しかないのにオレンジジュースって宣伝するんだぜ!」


突然食いかかってくるのも日常茶飯事だ。


「別に不味くはねえだろ、結局外見が大事なんだよ」


「人間って舌バカなんだなー」


俺は溜め息をつくとアパートの扉を開けた。


「もう出ないとバイト遅れるぞ」


「行きたくねー」


そう言いながら圭佑はむくりと起き上がり洗面所へ入っていった。秋風が少し冷たくなってきたように感じるが、空は綺麗に晴れている。軽くあくびをしながら空を見つめる俺の後ろには観光宇宙人用の飛行船が鏡の反射に写っていた。


30XX年、人間は宇宙人と交友関係にある。宇宙人と交信するようになって数百年、この太陽系でも最も宇宙人の行ききする惑星となっていた。地球を気に入った宇宙人も徐々に住み着き、法律もかなり前に宇宙人との婚姻も許している。今となっては人間だらけであった世界など想像もつかないが、今もあまり悪くないと俺は思っている。


「またニュースで流れてるぜ、ほら、あの”団体”また出たって」


昔はその週の天気をニュースで流していたらしいが、今のニュースでは物騒な事しか報道されないようになっている。天気など空を見上げたらスクリーンに写っているのだから。


「ああ、あの純血だのなんだの言ってる奴らか」


宇宙人が増えてきたことによって人間の中にも自然的に混血が増えてきた。最近では混血の世界人口も50%を超えたらしい。しかも混血の身体能力以外は人間そっくりだとくる。これに対して法は大胆に10%まで人間の血が混ざっていればその生命体を人間として受け入れると判断した。しかし面白い事に差別はそれほど起こらず、逆に崇拝らしきものが始まっていった。

そのせいか最近では各地で”赤十字”、と言う混血だけで結成された団体が蔓延っていると言う。彼らは純度の高い人間の血を取り込む事で神の子である人間に戻れると信じている、めんどくさい人達だ。しかし市民に危険が及んでいるのは間違いないし、警察にも早く対応して欲しい。”赤十字”は血を求む10%と言う意味があると言われているがどうやら昔の団体を皮肉してもいる、

らしい。


「そんな呑気でいいのかよー。確か悠太、お前純度高めだろ」


お前だけには呑気と言われたくはないと思いながら俺は答える。


「100%だよ。ていうか気をつけるのはお前もだろ圭佑」


「そう、何を隠そう俺も100%だ。二人で二百万パワーズ!」


このノリが終わる事の方が優先かもしれない。


****


「喉乾いた〜、このバイトいくらなんでもブラックすぎるだろ」


「時給いいんだからしょうがないだろ」


もう日は暮れており、街のネオンサインが少し眩しくなり始める時間だ。


「悠太、タクシー乗ろうぜ。頼むわー」


「お前今いくら持ってる」


「20ネカ」


圭佑は財布が空っぽのジェスチャーをすると俺の方を見た。


「俺は10だ、歩くぞ」


少しの静寂が終わると圭佑はトボトボと俺の後ろを歩き始めた。角を曲がると俺たちはちょっとした路地裏に入っていった。圭佑は拗ねてしまったのか全く喋らなくなってしまったが、これも静かで良いものだ。今日は曇りのせいかあまり星が見えないn


グヂュリ


くびにかんしょくがつたわる。


「ごめんな。後少しの筈なんだ、悠太。ありがとう」


圭佑は啓発されたかのようにニタリと笑い、また顔を俺の首に近づけた。


「ゴボッ」


突然俺は突き飛ばされた。


「お前、10%だろ」


圭佑は地面に唾を吐くと恨めしそうに俺を見つめた。俺はゆっくり首を回すと、頷いた。


「チッ」


まるで楽しみにしていた果実が腐っていたような顔を作りながら俺を見る。


「やっぱり味が違え、混血なら先に言えや」


俺は圭佑に振り向くと、睨めつけた。


「俺もお前を狙ってたんだよ。クソが」


溜め息を吐くと圭佑はきた道に戻り始めた。


「気分が悪い、俺はもう行くぜ」


「赤十字、万歳」


「赤十字、万歳」


少しすると混血はもう見えなくなっていった。

俺はあくびをすると、混血に噛まれた場所から赤い着色料の入ったオレンジジュースを取り出した。


「気持ちわりぃ」


破けたオレンジジュースからは常に中身がたれ出ている。右手で携帯を取り出すと、俺は手っ取り早く圭佑の連絡先を消した。


「やっぱ宇宙人も舌バカなんだな」






果汁100%を買わなくてよかったと思うと、俺はオレンジジュースを道端に放った。

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