ケーキ売りのビネット・ファリンと、闇に沈んだクリスマス・イブ ~アドベントカレンダー2024~

天野橋立

Day1「割のいい、お薦めの仕事だよ」

 一年の終わりも近づくこの時期。超々高層ビル群の狭間にある公共労働斡旋市場リクルート・マーケットは大変な活況を見せていた。

 山積みの仕事でてんてこ舞い、とにかく人手の欲しい雇い主と、支給される金属コインの輝きで懐を暖かくして年を越したい労働者たち。利害の一致した両者が、渦を巻いて流れ込んでくるのだ。


 みんなそれぞれに必死だから、モルタルむき出しの壁に囲まれた寒々と殺風景なこの場所も、この時期ばかりは異様な熱気で満たされる。

 世界を滅ぼしたあの戦争アトミックも遠くなり、復興の象徴として建設されたこの大都会の繁栄ぶりには、今や目を見張るべきものがあるのだった。


「さあ、お次はこの俺のとっておき、特別に割のいい、お薦めの仕事だよ」

 でっぷり太った手配師の男が、並んだ演台の上で声を張り上げる。

「あんたの仕事の割が良かったことなんかあるもんかね!」

 そんな男に、前列の老人が混ぜ返すように叫び返した。

「この前なぞ、半恒久有害廃棄物ラディワーストだらけの地下坑道で瓦礫の片付け、三日三晩働き詰めじゃったわい!」


 周囲の男どもの間では、「ちげえねえ」と爆笑が広がるのだった。


(#2「若い娘っ子なぞおるもんかね!」に続く)

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