第二話 愚図呼ばわり

 召喚士ってカッコいいじゃないか。

 一時期憧れていたことがあるくらいだ。

 おまけに『天魔てんま』というおまけまで付いている。

 なのにどうして、エオニアは酷い言い方をするのか。


「これで全員か……。さて、これより皆を転生させよう」


 エオニアの様子がおかしい。

 先程までテンションが高かったというのに、声には疲れが混じっている。

 まるで宝石の山の中に一粒だけガラス玉が混じっているのを見つけて落ち込んでいるかのようだ。


「うむ、どうしたのだ?」


 他の連中が激しく点滅をしている。

 エオニアに質問をしているのだろうか。


「ほうほう、どうして天魔召喚士が産廃さんぱいのゴミかと」


 おいおいおい。

 そこまでけなすのは酷くない?

 

「単純に弱いのだ。まず、強い存在を召喚する際の術式を詠唱するには高度な演算処理能力えんざんしょりのうりょくが必要となる。人間の脳では処理はできないだろう」


 いや、不可能と断言は出来ないだろう。

 そんな俺の考えを鼻で笑うかのように、エオニアはこう続けてくる。


「仮に詠唱できたとしても、膨大なカロリーを消費する。間違いなく脳が飢え死にする。そして、強い存在を呼び出したとしてもだ」


 いや、まだ続くのか。

 何だろうか、仕事での失敗を延々と責められているかのような気分だ。

 大勢の前で叱咤するという行動そのものを違法にしてくれれば世の中住みやすくなるのだが。


「従わせられるとは限らないのだ。ダメ押しに、召喚術士の成長傾向は魔力の最大値数の伸びこそ良いが、あとは最底辺だ。他にも山ほどあるが路地裏ろじうらチラシ配りのクラスの方がまだ戦える」


 そ、そこまで酷いのか……。

 というか、路地裏チラシ配りって何だ。クラスというか、悲壮感溢れるアルバイトなだけじゃないか。


「さて、説明も終わりだ。諸君らを異世界、ヴァーミガルドへと転生させるが――」


 すると、待ったをかけるかのように他の連中達が光り出した。

 エオニアに抗議をしているかの如く光は忙しなくうごめく絵面に、俺は恐怖を覚えた。

 嫌な予感がする。

 そして、エオニアはこう答えた。


「なるほど。こいつは転生させる必要はない、と」

「え? お、おい、皆……。そんなこと、ないよな?」


 周りにいる連中に俺の言葉は通じているのか。

 少なくとも、彼らの放つ光の明滅めいめつを見ると、慈悲を向けているという訳ではなさそうだ。

 威嚇に似ており、まるで俺を縄張りから追い払うかのようだ。

 

 ――出ていけ。

 ――役立たず。

 ――消えろ。


 厄介払いをするように、光はますます強くなっていく。


「や、やめてくれ。やめてくれ……」


 生きていたころの、嫌な記憶が蘇る。

 まともな人間扱いされず、のけ者にされ、追いやられて。

 そして、寂しく生きろと強いられる。

 せめて、来世くらいもう少しマシな生き方をしたかったというのに、それも許してくれないというのか――。


「どうやら、君は皆から認められなかったようだ。では皆の者、いざ新しき世界へ――」


 その瞬間、俺以外の気配が一瞬にして消えてしまった。

 もしかしたら戻ってきてくれるかもしれない。

 しかし、いくら待っても誰も戻ってくる気配はなかった。


「えっと、これって――」


 どうやら、俺は追放されたようだ。

 生前の世界も力の無い者には厳しかった。

 そう考えると、無力な奴はどこの世界にも居場所はないらしい。


「そうか、そうだよな……」


 今まで窮屈な生き方しか出来なかったのは、俺に生きてもいい力がなかったからだ。

 どうして、もっと早く気がつかなかったのやら。

 落胆すると同時に、意識が朦朧としてきた。

 自我を失ったその時こそが、完全な死なのだろう。

 まるで空間に溶け合うかのように、消えてしまうのか――。

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