第十三話 閉ざしの栞
ふと、ゴウザエモンの方に目をやると口から泡を吐きながらもミキナへと手を伸ばしていた。
「どうして、くそ、ぐあうぐ――!」
何を言っているか分からないが、恐らくは錯乱しているのだろう。
寝ぼけていると自分が何を口にしているかすら理解できない。
そんな精神状態なのだろうが、それでも闘争本能は揺るがないらしい。
奴は最後の力を込めてミキナへと攻撃を仕掛けるようだ。
手からは紫色の毒々しい光を放っており、マドオーラによる全力の攻撃を行うつもりだ。
「ミキナ!」
直撃すれば間違いなくミキナもタダでは済まない威力だ。
しかし、いくら強い攻撃であろうとも、動きが単調では意味が無い。
「遅い――!」
ミキナはゴウザエモンの攻撃を紙一重で回避する。
怒りに身と心を任せた渾身の一撃は虚しく空を切る。
奴はすかさず再度攻撃を試みるも、何もかもが遅かった。
「これで――」
ミキナはゴウザエモンの背後にいた。
高く跳躍し、手には禍々しいマラカスを持っており――。
「終わり!」
ゴウザエモンの後頭部にすさまじい一撃が放たれる。
後頭部への不意の一発を見ていると、サスペンス映画の一幕を思い出してしまう。
「結局、鈍器として使うのか――」
そして、鈍い音が響いた。
その後、巨体がぐらりと揺れ、地面へと崩れ落ちる。
強固な砦を陥落させたかのようで、思わず安堵のため息を零す。
しばらくすると、ミキナがトテトテと駆け寄ってくる。
皆狂いの歌唱者は持っておらず、どうやら返却したようだ。
「勝ったよ」
「お疲れ様」
背伸びをしているミキナを見ていると、まるで部活動から帰ってきた女子学生に見えてしまう。
ゴウザエモンは確かに強敵だったが、ミキナからすると明日にでも忘れそうな存在に過ぎないのだろう。
「安心して。手加減しているから、症状は治まるから」
「そ、そうなのか」
「うん。一年ぐらいで治まるかな」
「お、おう……」
一年という時間は短いのか、それとも長いのか。
まともに戦えないのはゴウザエモンにとって多大なストレスであることには違いないが。
「ミキナよ。ぬしの実力は見させてもらった。疑って悪かったの」
「気にしないで。強者は常に実力を隠すものだから」
「ほう、言うではないか。大方、まだまだ実力を隠しておるのじゃろ?」
「……内緒」
「ますます気に入った。ぬし達といれば、強者と戦えるというのは間違いなさそうじゃ」
セリーニは嬉しそうに笑う。
やっと、長い退屈から解放される、といった感情が見え隠れしている。
どうやら、俺はとんでもない方を封印から解き放ってしまったようだ。
「あ、そうだ」
肝心なことを忘れていた。
俺は白目を向いて倒れているゴウザエモンへと近づく。
何やらうなされており、当分の間目を覚ますことはないだろう。
「あったあった」
ゴウザエモンの足下に、細長い紙片のような物が落ちている。
闇のように深く、どんな光をも吸い取ってしまいそうな程に暗い。
「
『栞』とは呼んでいるものの、本に挟むといった用途で使うのではない。
亡くなった者や戦意を喪失した者が落とし、これに触れることで俺は新たな力を得ることが出来る。
得られるのだが――。
「やるか」
俺は唾を飲み込んでから、恐る恐る栞へと触れた――。
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