第一話 終わりの始まりの物語

私立寮優高校。進学校と名高い共学制の高校であり、名だたる大会社の子息、令嬢が通う名門校である。その2年1組の教室にて。この学校の数少ない"庶民"の生徒である、戌亥涼介は窓の外の葉桜を見ながら聞き耳を立てていた。


「おい、聞いたか?今日ウチのクラスに転校生来るってよ!」

「マジかよ!どんな子?男?女?」

「職員室での会話を聞くにアレは女だ!間違いない!」


     キーンコーンカーンコーン


「はーい、お前ら席に着けー。・・・・・ま、もう既に知られてるとは思うが、このクラスに転校生が来る。入れー」


 「うぉ・・・」「マジかよ・・・」「嘘・・・」


クラスがざわつく。全員の視点が1箇所に集まる。クラスに入ってきたのは一人の少女だ。吸い込まれる様な金髪の長い髪。スラリと立ち女子の平均を上回るであろう長身。大きすぎず、目立ちながらも慎ましい体。日本人とは違う白い肌。背後の黒板に名前が書かれる。


       「黄咲 アンナ」


「黄咲アンナです。なんとなく察せられると思うけど私はフランスと日本のハーフです。皆様、どうぞよろしくお願いします」

「と言うわけだ。お前ら仲良くしてやれよー。さてと、席は・・・お、戌亥の隣が空いてるな。席はこの列の1番後ろ・・・あいつの隣だ。戌亥ー。お前、この学校のこと案内してやれよ」


前の席達を通り過ぎて、彼女は俺の隣の席に座った。周囲の(主に男子達の嫉妬による)視線が突き刺さる。


「えっと・・・戌亥君?改めてよろしくお願いしますね」

「あ、うん・・・こちらこそよろしく。俺は戌亥涼介。呼び方はお好きな様にどうぞ。」


こうして間違いなく今までの人生で最も注目を浴びたであろう瞬間は終わった。特に大した出来事もなく、放課後。あらかた学校の説明を終わらせて同じ方向だと言う事で一緒に帰宅している途中。夕焼けの中二人の影が伸びる。そんな中戌亥はちょっとした違和感を覚える。違和感は二つ。一つは夕焼けにしては時間が早く異様に赤い。二つ目は隣のアンナがそわそわしている事。最初は自分(男)と二人きりだから緊張しているのかと思っていたがその緊張とは少し違った緊張の様に見て取れる。


「えと・・・黄咲さん・・・?大丈夫?なんか周囲に気を配っててソワソワしてるけど・・・」

「え、えぇ・・・うん。大丈夫よ。ちょっと緊張しちゃって・・・あはは・・・」


ふーん、そんなもんかと思ったのも束の間、二人の少し離れた前に黒いモヤが漂っていた。ふと見ると、空はいつのまにか曇天へと変わっていた。二人は立ち止まり、呆気に取られている。いや、呆気に取られているのは戌亥だけだった。隣のアンナはモヤを睨んでいた。モヤは人型となって明確な形のなる。その人型は体の至る所に顔を持ち、右手に本を持っていた。誰が見ても人ではない。人型の足元には一つの紋様が浮かんでいた。人型の生物はアンナを見つめながら深く一礼し、声を発した。その声は老若男女の声が混じり合い、不思議な音だった。


「ご機嫌様。名高く気高い聖処女よ。我が名は《ダンタリオン》。貴女の命と能力・・・いただきに参りました」


その言葉を聞いて戌亥は独り言を呟いた。


「ダンタリオン・・・ソロモン王の悪魔の名前だったよな。確か、序列は71位の公爵・・・・・て言うか、聖処女・・・?」


アンナは一歩前に出て、睨み続ける、戌亥は震えながら声をかける。


「お、おいアンナ。アレお前の知り合いか?なんかどう見てもやばいんですが・・・」

「ごめんなさい戌亥君。今すぐには説明できないのだけれど、ちゃんと説明するから下がってくれる?」


アンナはそう言うと胸元から十字架を取り出した。十字架を胸の前に持ち、祈りを捧げるかの様に俯く。その姿は神々しく、戌亥は二、三歩下がってしまった。アンナは十字架を強く握りしめ、高らかにその"名"を呼ぶ。 

 

        「信託の乙女」

        《オルレアン》


十字架が輝き、辺りを光が包み込む。光が収まった時、戌亥の目には軽鎧を着込み、腰に剣を、右手に旗を持つアンナの姿があった。


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