お茶会と決闘 8
「うわああああああ‼」
わたしの左腕が激しく光って、カントルーブ伯爵令息が目を押さえて動きを止める。
わたしはその隙に魔術を展開させると、まず、自分の周りに結界を張ることにした。
しかし、わたしが左腕に装着していた魔道具は、夜道を明るく照らす魔道具の一種である。
少し改良を加えたとはいえ、ちょっと眩しくて目が開けていられない程度なのでダメージはほぼない。
ゆえにカントルーブ伯爵令息はすぐに回復し、片手で目を押さえた姿勢のままわたしに斬りかかって来る。
その剣が振り下ろされるギリギリで展開できた結界が、キンッと甲高い音を上げて彼の剣をはじいた。
……危な! ぎりぎりだった……!
時間稼ぎのために魔道具を持って来たけれど、たいした時間稼ぎにもならなかった。カントルーブ伯爵令息は噂どおり優秀なのだろう。もう少し時間が稼げると思っていた。
だが、ひとたび結界を張ることが出来たらこっちのものだ。
これで魔術を練り上げる時間は確保できる。
「卑怯だぞ!」
カントルーブ伯爵令息が何度も結界を切りつけながら苛立たし気に言うけれど、魔道具の使用も事前に申請を出して許可されたものであれば問題ないし、魔術の使用は禁止されていない。というか、魔術の使用が禁止されていたらわたしだって代理人を立てた。剣術なんて習ったことはないからね!
だから、卑怯なんて言葉は受け付けない。卑怯だというのなら、丸腰の女に斬りかかって来たそちらはどうなのだと言ってやりたい。
結界の中で魔術を練り上げ、最初は様子見のために下級魔術を放ってみる。
この場は観客が多いため火魔術は避けた方がいいだろうと、試しに風魔術を使ってみたが、さすがは騎士と言うべきか、放った風の刃は簡単に弾かれた。どうやらあの剣はただの剣ではなく魔剣のようだ。普通の剣なら魔術攻撃をはじくことはできない。
これで倒れてくれたら簡単だったのにと舌打ちしたくなったわたしへの攻撃の速度が跳ね上がる。どうやらあちらも最初は様子見をしていたようだ。
先ほどより格段に速度も威力も上がった攻撃に、わたしは慌てて結界魔術を重ねがけした。あちらが魔剣持ちなら、攻撃を繰り返されるうちに結界が破られる恐れがあるからだ。
上級結界を最初の結界を覆うように重ねると、カントルーブ伯爵令息がおやと目を見張る。
「なるほど、さすがにグリフォンを討伐しただけある。上級結界も操れるのか」
余裕そうに笑っているがその口元は引きつっていた。どうやらあの魔剣では上級結界までは破れないらしい。
とはいえ、油断は禁物である。結界が破られたら一気にわたしが不利になるのだ。
わたしは続けざまに中級魔術を展開させる。
闘技場の地面が盛り上がり、つららを逆にしたような形の土の刃が彼の足元を狙うも、それも難なく回避されてしまった。
ならばと風の魔術を複数展開するも、よけたり弾かれたりと、ダメージは与えられない。
ただ、その表情に焦りは見えたので、わたしはこのまま攻めることにした。
決闘とはいえ、命にかかわるような大怪我はさせたくない。
一応救護班が控えているけれど、だからいいというものでもないだろう。
……と、なると。
相手に深手を負わさずに負けを認めさせるには、気絶させるのが一番だ。
決闘が長引けばフェヴァン様が心配するだろうし、そろそろ終わりにしたい。
わたしは魔術を練り上げつつ、その瞬間を待った。
そして――
「結界ごと、弾き飛ばしてやる‼」
風の魔術で助走をつけ、地を蹴ってカントルーブ伯爵令息が勢いよく斬りかかって来た、そのとき――
「これで終わりよ」
わたしは、水魔術で巨大な水球を発生させると、風魔術で勢いをつけ、彼に向かって思い切りぶつけてやった。
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