魔物討伐 3

 子供のようにはしゃいでいるお父様は、森に到着する前に大量の薬草を採取して、持っていた革袋の一つをすでにパンパンにしてしまった。

 森に到着してからも、あっちにうろうろこっちにうろうろしては、目的の素材以外のものを大量に手に入れている。


「お父様、その調子だとマンドラゴラと月歌草を手に入れる前に革袋が全部いっぱいになってしまいますよ!」

「それは大変だ! ……でも、せっかく来たんだし。ねえアドリーヌ~」


 お父様が猫なで声を出した。

 わたしはため息を吐く。


「休憩を取るときに、袋の中身を全部出してください。邸の玄関にでも転移しますよ」


 空間属性の適性は強くはないが、この距離であれば大きなものでなければ転移可能だ。

 お父様がぱあっと顔を輝かせる。


「ありがとう、アドリーヌ!」


 本当は、転移してあげるなんて言えばさらにお父様の歯止めが利かなくなるので嫌だったが、では一度邸に戻ってまた森に行くと言われるよりはましだった。今のお父様ならそのくらいしそうだ。


「アドリーヌは空間魔術も使えるのか?」

「少しですけどね。わたし、適正のある属性が多いんです」

「すごいね。それだけ魔術が使えれば申請すれば国費留学の対象になっただろうに、どうして申請しなかったの?」

「……知らない人たちばかりの学校に通いたくなかったので」


 社交性のないわたしには、他国の学校に留学するなんて無理だった。お姉様ならすぐに友達を作れるだろうが、断言する、わたしは留学期間が終わるまで友達を一人も作れないだろう。

 ベルクール国では学校に通うのは義務ではないので、わたしは必要なお勉強は家庭教師から学んだ。魔術はお母様から。社交デビューも十六歳ぎりぎりで、パーティーに行っても壁の花なので、わたしが友人と呼べる人は非常に少ない。

 国内でこの状態なのに、国外で友達が作れるはずがないのだ。


 フェヴァン様もこれでわかっただろう。

 社交性が皆無のわたしに侯爵夫人なんて務まらない。お茶会とかパーティーを主催するとか無理だし、招待されても気の利いた話題一つ提供できないのだ。


「アドリーヌは内気なのかな? でも、俺とこうして普通に話しているし、頭の回転も速い。あとは慣れだと思うよ。人の多いところに慣れれば、自然とふるまえるようになる。別に人間嫌いってわけじゃないんだろう?」

「それはまあ……」

「じゃあ、気にしなくてもそのうち慣れるよ」

「……頑張れとは言わないんですね」


 てっきり、慣れるしかないから頑張れと言われると思った。お姉様にもよく言われるからだ。


「君は充分人と話せているんだから、これ以上何かを頑張る必要なんてないよ。会話ができないって言うのならそりゃあ練習が必要だろうけど、アドリーヌの場合そうじゃないからね。だからあとは、アドリーヌの心次第なんだよ。そういうのは無理するものじゃないから、自然と慣れるのを待った方がいい」

「そういうものですか?」

「そういうものだよ。まあ、家の中に閉じこもって誰とも関わらなくなったら話は別だけど、アドリーヌの場合、苦手だと思いつつも最低限パーティーには出席しているだろう? 俺の家のもそうだったし。だったら慣れる機会なんていくらでもある」


 フェヴァン様は「なるほど」と頷きながら聞いていたわたしの頬に手を伸ばして、するりと撫でた。

 ぶわっとわたしの頬に熱がたまる。


「アドリーヌはさ、真面目なんだよ。真面目過ぎるくらいにね。だから余計なことを考えるんだろう。人付き合いなんてね、肩の力が入っていたら失敗するんだ。楽にしていればいいんだよ」


 とろりとフェヴァン様の水色の瞳が甘くなる。

 その目に吸い込まれそうになっていると、こほんと離れたところから咳払いが聞こえてきた。


「あー、君たち。仲がいいのはいいけど、早くしないと、置いていっちゃうよ」


 お父様のあきれたような声に、わたしは危うく悲鳴を上げるところだった。


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