血迷った求婚者 7

 今思えば、断るにしてもずいぶん可愛げのないことを言ったなと思う。

 だけどあの時のわたしはマリオットの発言に腹を立てていたし、彼もわたしに対して充分失礼だったと思うのだ。


 ……というか、マリオットにあんな啖呵を切ったけど、実際に誰も求婚相手なんてあらわれなかったし、ようやく表れたかと思えばまた「責任」なのよね。


 偉そうなことを言ったけれど、わたしは責任以外で結婚相手を見つけることができないのかもしれない。

 だけど、それでも「責任」とは結婚したくないのだ。モテないくせに何を偉そうなと思われるかもしれないけれど、わたしはこれ以上自分をみじめにしたくない。

 わたしの話を黙って聞いていたフェヴァン様は、小さな声で「ごめん」と言った。あの日のマリオットと同じだ。男はバツが悪くなると「ごめん」と言うのだろうか。


「俺は、君の矜持を傷つけたんだな」


 矜持なんてご大層なものじゃないけれど、まあ、譲れないものではある。

 わたしだって自尊心くらいはあるのだ。


「だからわたしはお詫びは受け取りますけど責任は受け取りません。そしてお詫びは充分にしていただきました」

「お詫びをしたのは俺の父で俺じゃない」

「一緒ですよ。あと、エターナルローズをくださったじゃないですか。あのおかげで父の体調もよくなりましたし、それを思えば充分すぎるお詫びをいただいたと思います」

「あれはお詫びじゃなくて……あー……、君は手ごわいな」


 フェヴァン様はがしがしと頭をかく。


「確かに最初は責任を取るつもりでいた。だけど今は、君に興味が湧いたよ。責任だろうと何だろうと、手段を選ばない令嬢はたくさん見て来たけれど、君のように責任はいらないと突っぱねる子ははじめてだ」

「変な女だと思ってくださって構いませんよ。だからまだ婚約者もいないんです」

「君に婚約者がいないのは、世の中の男が、君の魅力に気づけない愚か者ばかりだからだよ。まあ、俺にとっては大変都合がいいことだけどね」


 ふっと笑って、フェヴァン様がさらりと、恐ろしいほど自然な動作でわたしの手を取った。

 そして、その甲にちゅっと羽のような軽いキスを落とす。


「⁉」


 突然のことにギョッとして手を引こうとしたけれど、思いのほかフェヴァン様の力が強くて、手が離れてくれなかった。


「アドリーヌ・カンブリーヴ嬢、改めて申し込むよ。今度は責任とは関係なく俺と結婚してください。きっと、君みたいな素敵な女の子には、一生出会えないだろうからね」


 フェヴァン様は、血迷ったのだろうか。

 そうでなければ、変なものを食べたに違いない。

 とろけるような笑みを浮かべるきらっきらの王子様然とした男を前に、わたしは、長く長く息を吐いた。



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