不名誉な噂と求婚 5
お姉様がいない以上、わたしが来客の相手をするしかない。
お母様たちのお土産のお菓子はアリーに買って来てくれるように頼んで、わたしは突然やって来た来客――フェヴァン・ルヴェシウス様とサロンで向き合っていた。
フェヴァン様を見るのはあの日以来で二回目だが、相変わらずきらきらした方だ。
肩甲骨のあたりまである銀髪は首の後ろで一つにまとめられていて、水色の瞳は澄んだ空のように透き通っている。
留学先のノディエラ国の学園では騎士科にいたと聞くだけあって、引き締まった均整の取れた体躯をしていた。
……留学先では騎士科にいたけど、この方は魔術も得意だから、留学から帰って来てからは魔法騎士団に所属しているのよね?
これはお姉様の情報である。
社交的で顔の広いお姉様は、あっちこっちからいろんな情報を仕入れるのが得意なのだ。
各所で経験を積んで、いずれはお父様と同じように宰相を目指すのかもしれない。宰相にならなくとも、将来はどこかの大臣に収まる可能性が高いだろう。ルヴェシウス侯爵家は昔から政治家の家系だ。
……って、そう言えばあの新聞のせいで、フェヴァン様も「男色家」って噂が立ってるんだったわ。大丈夫なのかしら? その、経歴的に……。
差別とまではいかなくとも、好奇な目を向ける人は多いだろう。フェヴァン様も社交界で居心地が悪い思いをしているに違いない。まあ自業自得ではあるのだが。
挙句の果てに、婚約破棄はあちらからときた。
つまりフェヴァン様は男色家とカミングアウトした結果、婚約者でない令嬢に婚約破棄を突きつけて、婚約者に婚約破棄をされた男性ということになる。
……うん、なかなかひどい。
こんな経験をする男性も、世界広しと言えど彼くらいだろう。ちょっと可哀そうになって来た。
「ええっと、フェヴァン様。今日はいったいどのようなご用件でしょうか?」
お詫びなら、ルヴェシウス侯爵から充分なものをいただいている。
わたしもあの日のことは早く忘れたいので、これ以上のお詫びは必要ないと考えているのだけど、フェヴァン様はいったい何の用で来たのだろうか。
すると、ファヴァン様は突然ソファから立ち上がると、わたしのそばまでやって来て、その場に跪いた。
そして、その胸に飾っていた一輪の赤い薔薇をわたしに差し出し、朗々とした声で宣う。
「アドリーヌ・カンブリーヴ嬢、俺と、結婚してください‼」
……あのぅ、わたし、この方のことが本気でよくわかりません……。
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