異世界転移したらスキル「りんご」を手に入れました
ダイシャクシギ
第1話
今の状況を3行でまとめよう。
高校入学早々、クラスの皆とまとめて異世界に召喚されたようだ。
目の前には偉そうな王様やしわしわの魔法使いっぽい爺さんがいる。
先にステータス鑑定されているクラスの皆は勇者だ! とか賢者が! とか言われている。
「次はあなたの番です。この水晶に触れてください。」
よくあるウェブ小説の転移ものみたいだ、とワクワクしつつ水晶に触れる。
こういうのは俺みたいなモブ男子が訳の分からない屑スキルを貰って、でも実はそのスキルが超強い、みたいなのが定番なはず……!
けちょんけちょんに言われる覚悟の準備は出来てるぜ……!
「あなたは ジョブ:なし、スキル:りんご ですね。」
よしっ! それっぽいぞ!
りんご……りんご……考えろ、考えろぉ……
あれか? 異世界なのに俺だけスマホとか出せる系か!?
「なんじゃ、その聞いたこともないスキルは。お前、使ってみせよ。」
「は、はいっ……」
トランプに書いてあるキングみたいなテンプレ顔の王様が言ってくる。
思わず小物感のある返事をしちまったぜ。
ここで実力を見せちまうとざまぁルートに乗れない気もするが、逆らうとどうなるかも分からないし、一旦仕方ない。
手のひらを上にした右手を顔の前にかざし、叫ぶ。
「うぉぉぉぉ!」
ポトンッ……
俺の手のひらに落ちてきた。
りんごだね。
「「「「ぶふっ……」」」」
「「「「ギャハハハハハッ」」」」
「「……」」
クラスメイトたちは大爆笑である。
俺の方を指さして笑っている。
少数ながら心配そうに俺の方を見ている連中もいるようだ。
「「「「っ……」」」」
俺たちの周囲を遠目に囲むの鎧姿の兵士たちは暗い顔だ。
無言で下を向いている。
「な……」
正面を見るとテンプレ王様の顔は俺の手にあるりんごのように真っ赤である。
しかもちょっとぷるぷるしている。
「なんじゃそのふざけたスキルはぁぁぁぁ! ふざけておるのか! そんなスキルでどう魔王と戦おうというのじゃ!!」
唾を飛ばしながら物凄い大声で怒鳴られた。
これはこのまま追放される系の流れじゃない?
俺だけ城から叩き出される感じじゃない?
「その者を闘技場へ連れていけ! 他の勇者たちは観覧席じゃ! 使い物にならん者がどうなるか見せてやる!」
「「「はっ……!」」」
素早く兵士さんたちが俺を囲み、両腕を確保される。
強い力で半ば引きずるように部屋から連れ出される。
両脇の兵士さんたちの顔を見ても、目を合わせてくれない。
追放じゃなくて闘技場はちょっと予想外気味だ……
どうやって逃げ出そう。
しばらく歩かされたあと、石造りのコロシアムのような建物に入る。
控室などには寄らず、円形の石壁で作られた広い空間に連れ出される。
立ち尽くす俺を置いて兵士さんたちは素早く下がっていく。
軽く周囲を見渡すと、たぶんバスケットコートの長辺ぐらいの直径。
バスケなんて体育でしかしてないから感覚だけど。
ゴゴゴゴゴ……ガゴンッ――
音がした後方を見ると入ってきた入口に格子戸が落ちている。
まぁ……闘技場なら、そうなりますよね……
ガゴンッ……ゴゴゴゴゴ――
顔を前方に戻す。
入口と反対側にあった格子戸がゆっくり上がっていく。
ドスンッ……ドスンッ……
薄暗い穴の奥から重い足音が聞こえる。
ドスンッ……ドスンッ……
ゆっくりと、巨大な人影が進み出てくる。
3メートルを優に超えていそうな立派な巨躯。
その両手首と両足をそれぞれ巨大な鎖につながれている。
何より特徴的なのは頭が牛であること。
首と口にはギャグボールみたいな拘束具もつけてる。誰の趣味ですかね。
ミノタウロスさんですか……
ちょっと一般人相手にサービスしすぎじゃないですかね……
「やれっ!」
声のした方を見上げると、闘技場の観客席らしい場所にテンプレ王様が見える。
王様の後ろの方にはクラスメイトたちも見える。
これから見れるショーを期待する顔と心配そうな顔が8:2ってところかな?
王様のちょっと横に立って何かぶつぶつ言っていたっぽい魔法使い風の爺さんが手に持つ樹の杖を掲げる。
ガギンッ――
嫌な予感とともにミノタウロスさんの方にすぐ視線を向ける。
ちょうど両手足と口を拘束していた鎖が地に落ちるのが見えた。
ドスンッ
ミノタウロスさんのすぐ手前に巨大な戦斧が投げ込まれる。
ぇー……あんな重そうなものどうやって投げたのよ?
石壁の上に数人の兵士さんがちが見える。
俺の視線を感じたのかすぐに顔ごと下を向かれた。
ドスンッ……ドスンッ……
顔を前方に向けるとミノタウロスさんがゆっくりと歩き、落ちている戦斧を拾い上げている。
意外と理性的……?
牛の顔とか分らんから理性がどれだけあるのかとか全然分からない……
命乞いとか効果あるかしら?
「さあ、やれ! ミノスよ! その者を! 残虐に! 殺せ!」
テンプレ王様がたぶんミノタウロスさんに命令する。
魔法的な何かなのか、首に残っていた拘束具が赤く光る。
「ブモォォォォォォォォ」
叫び声とともにミノタウロスさんが一気に走ってくる――
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