日常に花を添えて
おニャンコぽんち
新野ココの場合
16:24 荒西崎高校部室一角にて
「
────沈黙────
「いいえ」
同じ人間同士の会話。だが男の方は見下すような態度で、女の謙虚すぎるほどの姿勢を際立たせるようなものであった。
「先輩は、どうなんですか」
「俺は全ての女を愛している」
間を空けず、男は答える
「……そういうものでしょうか」
「そういうものだ」
何気のない平々凡々たる日常。1週間のうち5日学校に通っては部活に顔を見せ、7時をすぎたら帰宅するという新野ココの日常。その中での登場人物が
「気持ち悪いですね」
「そうか」
新野の率直な暴言を薙田はまるで日常会話かのように躱す。双方とも本を読み続けて、液晶をスライドさせて。
「新野ココ、この後空いているか?」
「今日はもう部活動しないんですか」
「俺の質問に答えろ」
────思案────
「早く閉めると言うのなら、まぁ」
「そうか。なら新しく出来た駅前のぶどう屋に行かないか」
「やっぱり、用事があった気がします」
「冗談だ」
「笑えないです」
「とにかく貴様と話がしたい。貴様がどうやったら人を愛することが出来るのか、貴様が何故伊達眼鏡を付けているのか、貴様のその長ったらしい黒髪は何の石鹸水で研いているのか俺は知りたい」
「……私は石鹸水ではなくシャンプーという名前のついた洗髪剤を使っています」
「そうか、有難う」
不意に新野が立ち上がる
「おい、何処へ行く」
「近くにたい焼き屋さんがあります。行かないんですか」
「!…同行させてもらう」
17:10 たい焼き屋「餡子谷」にて
「それで、先輩は何から聞きたいんですか」
「まずはスリーサイズからお聞き願おう」
「上から84、60、81です」
「近年稀に見る素晴らしい体型だ。おめでとう、貴様はきっといいモデルになるぞ」
「嬉しくないです」
────気まずい、話題を変更しよう
「次の質問だ。先刻も言ったが何故伊達眼鏡なんだ?貴様の視力は0.02という学年で最低ラインだと聞いたが」
「レンズがあったら私の顔が可愛く見えないじゃないですか」
「ほう、貴様が他人様の眼を気にするような女だとは思わなかった」
「小学校の頃から眼鏡で、特に何も言われたりとかはしなかったんですけど、ある日鏡見たらレンズが分厚くて私の目が小さく見えちゃったんです。どうしようかなぁって思ったんですけど、でも眼鏡かけた方が私可愛いのでコンタクト入れてレンズは抜きました」
「……」
────絶句────
「外見と中身のギャップが凄まじいな貴様は」
「ありがとうございます」
「褒めていないぞ」
「ここのプリン美味しいですね」
「気になっていたのだが何故たい焼き屋でカスタードプディングを頬張っているのだ貴様は」
「知らないんですか、たい焼き屋の作るプリンがこの世で1番美味しいんですよ」
「ホラを吹くな新野ココ」
「先輩こそたい焼き屋で何で特大パフェを頼んでるんですか」
「これはたい焼きが具に入っているから悪ではない、悪いのは貴様だ」
「そんな、人を変人みたいに」
「変人よりも変態だろう貴様は」
「先輩には絶対言われたくなかったです」
「潰すぞ」
「すみませんでした」
────察知────
「気づいたか新野ココ、先程から妙な輩が此方を覗いている」
「賊でしょうか」
「あぁ、その可能性はあるな。だが安心しろ、我が魔術で蹴散らしてくれるわ」
ジョークなのに、と頭の片隅で思ったがすぐに新野は打ち消す。ふと、別の事が浮かび上がった
「…先輩は私の事好きなんですか」
「何を言う、先刻も口にしたが俺は地球にいるすべての女を愛しているぞ」
「答えになっていない気がします」
「俺は貴様の事も大切に思っている」
「ありがとうございます。私は先輩の事普通に無理ですけど」
「そうか、だがそれでいい。恋愛は障害があったほうが燃えるからな」
「先輩って恋に関してはロマンチストですよね、そういう所生理的に無理です」
「俺は俺という人間を死ぬまで曝け出すぞ」
「ならとっとと死んでください」
同時刻、茂みにて
(……かわっ、かわいい〜!!好きだ、好きだ!やっぱり僕の目に狂いは無いんだ!あんなにも素敵な黒髪他に見た事がない!隣にいる奴は恋人か?獄門にしてやろか?)
18:47たい焼き屋「餡子谷」にて
「先輩、門限なので帰っても宜しいですか」
「承諾する」
「ありがとうございます。あ、お代は払っておいてください」
「ふん、言われなくてもしてやるさ」
「じゃあまた部室で。お疲れ様でした」
「さらばだ我が眷属……帰り道、気をつけろよ」
「ええ、そうします」
口角だけ上がらせて新野は振り返らず歩く、何者にも口答えをさせないような美麗な所作で。
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