「花送り」と真実の物語
紀奈子
花送りの物語
遠い昔、「花送り」と呼ばれる人がいました。
花送りには使命があります。
死者たちへ花を手向け、還ってくるための道標をつくることです。
花送りは孤独です。
一人しか存在できず、新しく誕生する時は周りに花が咲き乱れるといいます。
そしてもう一つ。
花送りは普通の人たちよりも早く、そして、綺麗に花を咲かせることができるのでした。
とあるところに、一人の花送りが誕生しました。
その子が笑うと周りに花が咲き乱れました。その土地の人々はその子を見るなり平和な暮らしをもたらしてくれると考え、祝福してその子を迎えました。
その子は周りの人々に見守られながら、美しく育っていきました。その花送りが育てる花は主と同じように、それは美しく咲きました。
花送りは残された人々のもとへ還ってこられるようにと願いを込めながら花を手向けます。人が死者となったときに花送りは現れるため、それを良く思わない人もいましたが、その姿を見た人々は花送りのことを「花の天使」と揶揄しました。
花送りは大変な使命を受けながらも温かい人々に囲まれ、平和に日々を過ごしていました。
ある日、花送りが花の世話をしていると、隣の国の使者が訪ねてきました。話を聞いてみると、先日死者となった王様のために花を手向けてほしいというものでした。
花送りの使命は死者の還るべき場所を示し、弔うことです。花送りは快く受け入れることにしました。
どんな花がいいか考えていると、使者がぜひ咲かせてほしい花があると花送りに言いました。死者が好きだった花を咲かせて手向けてほしいというお願いをされることはよくあることで、花送りにとっては容易いことでした。
花送りは王様という特別な人に花を手向けることができるということに対して誇りを感じていました。
いくつかの朝が過ぎて、使者が花を受け取りに訪れました。使者は花を見るなり大層喜んだ様子でした。ひとしきり喜びの言葉をあげた後、使者は花送りに一つお願いをしてきました。それは、これからも頻繁に花を咲かせて我が国にくれないか、というものでした。
普通花をその人のために咲かせるのは死者になった時くらいです。花送りは困ってしまいました。使者は、この花を見ると国民も王様を思い出して喜ぶ、王様も好んでいた花がたくさんあれば還ってきてくれる、という言葉を続けました。
花送りは使者の言葉を聞き、それも自分の使命の一部だと思って話を受けることにしました。
今までの使命に加え、隣の国に送る花を育てるようになってからしばらくした日、今度は自分の国の使者が花送りのもとへ訪れました。
使者は花送りへ問います。隣の国へ花を送ったのか、と。花送りは王様へ花を手向けたこと、今もその花を育てていることを正直に話しました。
それを聞いた使者は何も言わず、花送りを捕らえてしまいました。
花送りは何が何だかわからず、使者にどうして捕らえられたのか、これからどうなるのかを聞きます。
使者は答えてくれました。この国は隣の国と戦争をしようとしており、その隣の国に花を送ったのが反逆行為であることが理由だ、反逆行為は処刑対象である、と。
花送りは悲しくなりました。花を手向け、死者を弔うことに敵も味方もありません。それを使者に伝えても、使者は首を横に振りました。
花送りは処刑されてしまう日までは花を咲かせて手向けることを許してほしいと願いました。しかし、その願いが叶えられることはなく、とうとうその日が訪れるのでした。
その日、花送りはたくさんの国民に見られていました。国民たちの中には花送りの見覚えのある人たちがいました。その人たちは、花送りが花を手向けた人の家族や友人でした。
処刑される直前、花送りは自分の使命を思い出しました。
――ここに花送りは必要ない。
その瞬間、花送りは花びらのような光に包まれ、捕らわれの身から解放されました。そして空高く飛び立ち、彼方の方角へと消えていったのです。
その姿を見た人々は言いました。そこには「花の天使」がいた、と。
花送りが去ってしまった後、その国と隣の国では花が咲かなくなってしまったのでした。
おしまい
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