記憶で語る戦争映画
吉村杏
気が狂った映画その1 〈地獄の黙示録〉
WWⅡが本命、とか言っておきながら一発目がベトナム戦争の映画です。
戦争映画を観るたびに、「前の戦争」が太平洋戦争を指している日本は幸運だなと感じざるを得ません。京都のおばあさんの「前の
〈地獄の黙示録〉は全編これ狂気みたいな映画で、そもそもの始まりが、主人公が「カーツ大佐がベトナムの奥地で軍の管轄を離れて好き勝手なことしてるから何とかしろ」と言われて、ジャングルの奥深く――「闇の奥」(原作ジョセフ・コンラッド『闇の奥』)へ踏み入っていく、という話です。他人の国で何やってんだよ。
一番有名なシーンは、ワーグナーの「ワルキューレの騎行」を大音量で流しながら戦闘ヘリから機銃掃射したりナパーム弾の投下を要請したりする、あの気の狂った中佐でしょう。あのセンスはない(褒め言葉)。
でも本当に気が狂っていると実感したのは、公開から20年近く経って、完全版を劇場で観た時です(それまでは地上波で観ていた)。
主人公は任務の途中で、フランス人の農園主一家に出遭う。
戦火が迫っていて危ないから避難した方がいいと言う主人公に、農園主はこう叫び返します。
「どこへも行かない! ここは我々の土地だ!」
私はこのシーンを観ていて…深く暗い…「闇の奥」に、一瞬ではあるけれど向き合った気がしました。
我々の土地って…他人の国で何やってんだよ。
植民地支配に共産主義に個人の欲望に戦争に…なにもかもがジャングルのように複雑に絡み合っていて、容易には抜け出せない。
単なるドンパチ映画とは違う、戦争を通して何か別なものを描いている、何か別なものが見えてくる。そんな映画のキオクです。
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