第4話 いちごちゃん

 ひと目見て、その幼女が能力を持つ家系の人間であることがわかった。俺たち闇に紛れて生きるモノにとっては忌避すべき赤いオーラを、肌がひりひりするほど放っている。

 俺だって馬鹿じゃない。すぐさまそこらに並べられている人間どもの玩具に変身して、素知らぬ顔でくたりとして見せた。

 さっさと行きすぎてくれよ。

 そう思っていたのに、幼女はあろうことか俺の目の前で立ち止まった。

「ママー! ももちゃん、この子がいい!」

 その小さな指が俺を指している。冷や汗が背を垂れる。

「あらあら、そうなの。じゃあ、その子にしましょう」

「わーい!」

 俺はくたりとなったまま小さな手の中に握られながら、家に運ばれるまでのどこかで逃げてしまおうと考えを巡らせた。

 が、続く言葉に全ての力が抜けていくのを感じた。

「この子はねえ、いちごちゃんっていうの! 可愛い可愛いお人形の、いちごちゃん!」

 力のある人間に付けられた名前は、そのまま俺たちの存在を縛り付けてしまう。

 俺は本当に、幼女の言った通りの物になってしまった。


 というわけで、俺はそれから彼女の「いちごちゃん」として生きている。

「いちごちゃん、お茶はいかが?」

 小さすぎるティーカップを握らされながら、俺は微笑む。

「いちごちゃん、可愛い!」

 最近、この在り方も悪くない気がしてきた。



お題「名づけ」

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