カンパニーガーディアン

カズタロウ

序章 少年とおっさん

 少年は、激しい豪雨の中で勢いよく地面に転がり落ちる。



 服はびしょ濡れになり、見上げるとそこにはおっさんが笑顔で立っていた。苦痛を抱えながらいるとこちらへ近づいてくる男。少年の目の前までやって来ると、しゃがみ込みこちらを見ている。



 少年は目を合わせようともせず、ひたすらに負けた悔しさを心に秘めていた。



「くそっ……なんで勝てねえんだ! 今まで一度も負けたことのねえ俺が……なんで!」



「お前さん、体つきは悪くねえがそんな荒っぽい戦い方じゃなあ」



「うるせえっ! これが俺の戦い方なんだよ……相手に隙を与えずに徹底的にぶちのめす。これが俺の戦い方なんだっ!」



 すると男はふっと笑いながら、少年の頭をぽん、と撫でる。



「な、なにすんだよ」



「確かにそういう戦い方も悪くねえ。けどな、そんな戦い方をいつまでもしてっと先にバテちまうのがオチだ。今までにそういうことあったろ?」



 図星をつかれた少年はただ、歯を食いしばるしかなかった。



「……お前さん、学校は?」



「もう行ってねえよ。親父の会社はカンパニーガーディアンの奴らに株金を根こそぎ取られて倒産。そして俺は学費も払えず、中退しちまった」



「で、今は不良になって荒んだ生活を送ってると」



「うるせえよ、そんなのあんたには関係ねえだろ」



 なるほどな、と男は納得した様子を見せる。しばらくしたあと、なにか思いついた様子で薄汚れたコートのポケットから名刺を取り出す。



「名刺? あんた、どっかの会社の社長かよ?」



「まあ、ただのゲーム会社の社長だ。どうだ、よかったらお前さん。うちで働いてみないか?」



「はあ!? いきなり何言ってんだあんた! 俺はあんたをぼこぼこにしようとしたんだぞ。それに、俺にはゲームを作るだけの力はこれっぽちもないからな!」



「違う違う。別にお前さんに普通に働けと言ってるわけじゃない。うちの会社のカンパニーガーディアンとして働いてほしいんだ。今、うちの会社には俺しかカンパニーガーディアンはいなくてなぁ。なんとかうちの会社を守ってくれる人間がいてくれたらと思って今、目をつけたのがお前さんだ」



 このおっさん、本気なのか? と一瞬本気で疑ってしまう。だが、この男の目は相当真剣な様子が伝わってくるのがわかった。



「……こんなただの不良にカンパニーガーディアン……?」



「おう、そうだ。俺はな、人には無限の可能性があると思っている。例えお前さんのような人間でもかなりの素質を持っていることは確かだ。どうだ、うちで働いてみる気はないか?」



「……いいのかよ。俺はあんたに因縁つけたんだぞ、ぼこぼこにしようとしたんだぞ。そんなことしようとした俺を、許してくれるのか?」



 男は愉快そうに大笑いしながら、少年の頭を二度も軽く叩く。



「ははは、なに言ってたんだ。酔っ払ってぶつかったのは俺だしな。そんなもの、広い空に比べればちっぽけなもんだ! なに、うちで働くからには俺が基礎をしっかりと叩き込んでやる。俺の実家はキックボクシングジムを経営してるんでな。お前さんの期待を裏切ったりなんかしないさ、従業員たちもお前さんをきっと温かく迎えてくれるぞ」



 すると、男は手を差し伸べてくれた。



 このおっさん、かっこいい。少年は酔っぱらいと思っていた男から一気に真逆の評価へ代わった。



 いつの間にか、少年は右手で男の左手を無意識に握っていた。ただならぬ男のカリスマに、魅了され少年は誓った。



 この男のところで働いて、人生をやり直そうと。

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