40. 女子会に紛れ込む僕 2

それからあの島に到着するのは、お昼頃だった。


ガタタンッ!


キャラバンが島に乗り上げ、大きな振動が伝わってくる。

それと同時に、外から漂ってくる草木の香りが甲板に広がっていった。


…ところで、みんな気になる事があるよね。

そう、このキャラバンは船の形をしてる。

これで本当に陸が移動できるのか?


実は出来ちゃうんだ。

原理はどうなってるのか知らないけどね。


そんな細かいことは置いておいて、僕は甲板から身を乗りだした。

するとそこには、あたり一面に大きな草原地帯が広がっていた…!


「うわぁ!」


僕はその壮大さが嬉しくて、思わず隣に座るユワルに声をかける。


「ユワル、降りてみようよ! 大草原だよ!」


「そんなに面白い? 普通の島だよ?」


「ユワルは分かってないな~! でかければでかい程良いんだよ!」


「ふ~ん…大きい方がいいんだ」


そう言うと彼女は、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

心なしか、自分の胸を見下ろしてるようにも見える。


「え…? ユワル…?」


「ぷいっ! ぷいぷい!」


ぷいぷい言いながら、頑なに僕から目をそらす彼女。

そんな僕らを、ハルが楽し気に笑った。


「あはは! マリンが何か変な事言ったぞ!!」


「誤解だよハル!」


「へぇ。 マリンはこっちの方が好きなのね~」


「ちょっとトーニャまで!?」


少し勝ち誇った顔のトーニャ。

乙女心は難しいみたいだ。


それはそうと、今までに見た事もないような巨大な陸地に僕は胸を躍らせていた。

海だらけだった僕らの旅も一変、ここからは陸が中心になるんだ。


見て。

でっかい草原だ!


あ、またでっかい草原!


どこまで行ってもでっかい草原だ!


地平線まで伸びるでっかい草原!


草原!


草原。


草原…。


草…。


…。



「ね、ユワル」


「なぁに? マリン」


「暇だね」


「…もう飽きたの?」


「半日も眺めてたらさすがに飽きるよ」


「ふふふ。 そのまま飽きちゃえ飽きちゃえ」


「…むぅ」


僕とは対照的に、ぼんやり外を眺めるユワル。

このくらいの熱量で眺めるのが一番良いのかな。


「…ふわぁ…」


なんて思っていたら、彼女はあくびをしだした。

どうやら彼女も暇で暇で仕方がないらしい。

僕も真似するように、あくびをしてみた。


「ふわぁ」


「そういえばマリン」


「…ぁぇ? どうしたの?」


「少し行った所に山があるんだよ」


「なんだ山かぁ。 僕の島にも山くらいあったよ」


「そんなのとは、ぜーんぜん違うの」


「何だって…!?」


「なんとね…」


「なんと?」


「大きいの!」


「大きい…!? どのくらい!?」


「…トーニャくらい」


「え?」


気付けば外は夕焼け。

見慣れた草原も、また違った顔を見せてくれた。


そして。

徐々に姿を表す山。

それはユワルが言っていた通り、本当に大きい!


「見て。 ユワルでっかいよ!」


「現実を見てよマリン。 私は小さいの。」


「…え!? っでも山は大きいよ!?」


「だから、私は小さいの!!」


「でも山は…」


「ああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


「ユワル!?」


突然叫びだすユワル!

僕何もしてないよ!?


何故だかその声につられて、ハルもやって来る。


「なんだなんだ!?!?」


「ハル! 見て山だよ!」


「お! なんだかあの山 懐かしいぞ!」


「見たことあるの?」


「なんだかそんな気がするだけだ!」


「不思議なこともあるんだね」


「だな!!」


そんな僕らに、ユワルが説明をしてくれる。


「あの山がね、島の区切りになってるの」


「区切り?」


「うん、区切り。 この先はまた違った景色が見れるはずだよ」


「…という事は、草原が終わるってこと?」


「うん! ここからはなんと、山道に入ります!」


「へぇ~!」


いったいどこから仕入れたのか、謎に物知りなユワル。

そんな時、僕の中で疑問が生まれた。


「ところで、その山道を抜けたらどうなるの?」


「そうしたらね、」


「そうしたら…?」


「また草原が始まるの」


「また草原なの!?」


「そ。 ここよりも凄くいっぱいの草原だよ!」


「うぅ…もっと面白くて、壮大な旅を想像してたのに…」


僕は思わず顔を下に向けた。

そんな僕の肩に、ちょっぴり冷たい手が乗った。

ハルの手だ。


「マリン、平和が一番だぞ?」


「ハルって急に深いこと言うよね」


「わたしはいつも深いんだ!!」


「普段の発言は浅いんだけどなぁ…」


「おい、どういうことだ!?!?」


「マリン。 ハルはこう見えて、ずっと年上かもしれないんだよ?」


「そうなの?」


「うん。 ネクロマンサーだから、本当の姿は分からないの」


「確かに言われてみれば…」


「そうだぞマリン!! ほら、敬え!!」


「年上…どころか年下にすら見えるんだけど」


「何をぉ!?」


とはいえ、ここに来るまでの間に何度か散々な目にあった。

釣りでの魔物を筆頭に、天使に危うく殺されかけた事もあったしね。

ハルの言う通り、本当に平和が一番なのかもしれない。


ットットットット


そんな事を思っていると、遠くから軽快な足音が聞こえてきた。

この足音はトーニャだ。


「あら? あんた達、ずっとここに居たの?」


彼女の方に顔を向けると、彼女の手には杖が握られていた。

みたところ、僕のみたことない新キャラが増えている。

小さくて青いクマが、一生懸命に杖へとしがみついているポーズだ。


「新しいクマ増えてる!」


「へへ! さっき作ったのよ!」


「可愛いね」


「でしょ~…。 あ、そうじゃなくて、夕食よ?」


「夕食? 少し早くない?」


「それがね、ベルズズが現地調査もかねて食べに行こうって言ってるのよ」


「外食!」


「えぇ、そうよ! はやく支度しなさい!」


ということで、キャラバン一行は町へと繰り出した。

ここは山のふもとの、ごく普通の町。

大きくもなく、小さくもなくといった印象だ。


基本的にキャラバンは、外食をしながら旅をしていくスタイルらしい。

ここから陸路に入ったわけだから、こうして町で食事を取る機会は増えるんだと思う。

僕としては料理できる回数は減るけども、美味しい料理が食べれたらそれで十分だ!

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