23. 10年間のプロローグ
月日が流れ、クララ、マルコと別れてから2年が経とうとしていた。
それでも相変わらず、僕は魔法の練習に励む。
ぷよん。
あ、今日もある。
情けない音をたてながら、そいつは僕の体に吸収されていった。
以前からたびたび見かける謎の球体。
最近では親しみを込めて、ガラス玉って呼んでいるんだ。
別に親しくは無いんだけどね。
ガラス玉はここ2年間で、急に見る回数が増えた気がする。
頻度としては1週間に1回くらい。
今回みたいに、2日連続でやってくる事もある。
正直、ガラス玉が何者なのか、一切分からないんだけどね。
そんな物を吸収してもいいのかって?
…たぶん、大丈夫じゃないかな。
前にこんな事があった。
あれはガラス玉との接触が増え始めた時のこと。
練習中、後ろで見ていたフワリが声を掛けてきた。
「マリン君」
「どうしたのフワリ?」
「最近、出せる水の量増えてない?」
「え? そんなまさかぁ…」
ありえない。
水の生成に関しては、僕はもう成長できないはずじゃないの?
そのことを教えてくれたのはフワリじゃん。
「そんなこと無いと思うけど」
「いいや、絶対に増えてるよ。 水、出してみて」
「うん」
僕は首を傾げつつも、ためしに水を生成してみる。
ポココ…。
すると目の前には、そこそこ大きな水球が生成された。
とは言え、今までとそう大差ないようにも感じる。
しかし…。
「すごいよマリン君! 石ころ1つ分、増えてるよ!」
「細かすぎるよ!」
なんとフワリが言うには、石ころ一個分だけ容量が増えているらしい!
いまいちピンと来ないんだけどね。
「それでもすごい事だよ。 何かした?」
「ん-…。 何も思い浮かばないかな…」
そんな特別な事、僕はした覚えがなかった。
心当たりがまるでない。
なんて考えていると…。
ふよふよ。
情けない音をたてながら、ガラス玉がやってきた。
そして何のためらいも無く僕に吸収されていく。
「あ、そういえばこれ! フワリ、何か分かる?」
「何だろうね。 私は初めて見たかな」
フワリも僕と一緒に首を傾げる。
そしてもう一度、僕の方を見た。
「ね、マリン君。 もう一回、水を出してみて」
「うん」
僕は頷きつつ、水を生成してみる。
コポポ…。
するとやっぱり、さっきと何にも変わらないような大きさの水球が生成された。
やっぱり…変わってない気がする。
「フワリ…気のせいだよ」
僕は、そんな言葉を漏らした。
しかし彼女は、食い気味に水球を見つめている!
「すごいよマリン君! 砂一粒分、増えてるよ!」
「分かるわけないじゃん!」
塵一粒の違いを見分けられるフワリ。
いったいどんな生活を送っていたら、そんな細かなことに気付けるのか。
僕は彼女が、不思議でならなかった。
「時にマリン君」
「はい!」
「あれは、積極的に吸収していこうか」
「いいの? まだ何も分かってないんだよ?」
「大丈夫だと…私は思うかな。 少なくても悪い物ではないと思う」
「うん、分かった」
という事で僕は、ガラス玉を吸収する事にしましたとさ。
塵も積もれば、山となる。
2年近くも吸収してると、それなりに変化が見えてきた。
それは石ころ一つの変化なんかじゃなくて、僕でも目に見えるほどに変化を感じるようになった。
2年間。
やっと2年が経ったんだ。
今日は僕の卒業式。
まぁ友達も居ないし、サラッと帰ってきたんだけどね。
そんな式典なんてどうでもいいよ。
だって明日はクララを迎えに行く日なんだから。
この時のために、僕は頑張ってきた。
ただ、ひたすらに。
…。
「マリン…すぐに行っちゃうのか?」
夕食時、お父さんが溜息をこぼす。
「うん。 そのつもりだよ」
「マリンちゃん」
お母さんは目をうるうるさせながら、僕の手を握る。
「大丈夫だよお母さん、また顔を見せに来るから」
「マリン、あんまり無理はするなよ?」
「うん、心配しないで!」
「大丈夫よお父さん。 クララちゃんが傍にいますから!」
「それもそうだな。 期待してるぞマリン!」
「もぅ…。 うん。 クララと2人で、最高の冒険者になって帰ってくるよ!」
「なんかお父さんまでワクワクしてきたな! マリンが立派になってくれて嬉しいよ」
「ほんと…こんな立派になっちゃって…」
お母さんがさらにうるうるしだす。
今日で、一区切りになるもんね。
今までの生活とはお別れだから。
この先。
どんな冒険が待ってるんだろう。
どんな困難が待ってるんだろう。
どんな成長が待ってるんだろう。
これからの物語。
クララと一緒に、紡いでいくんだ。
明日は、その第1歩!
きっと、面白くて、楽しくて、夢のような日々が始まるに違いない!
でも、今までの日常だって忘れちゃいけないよ。
何物にも変えられない、大切な日々なんだから。
今まで出会ってきた人たちとは、しばらく会えなくなっちゃう。
お母さん、お父さん。
フワリにユワル。
そしてクララとマルコ。
…あ、それとベルズズも居たね。
これからもずっと大切にしていきたいな。
「お父さん、お母さん、今までありがとう!
しばらく会えなくなっちゃうけど、これからもよろしくね!」
「マリンちゃん…!」
お母さんの涙は決壊した。
「マリン…ありがとうな…頑張れよ」
お父さんは静かに僕を抱きしめる。
「手紙は贈るからさ、心配しないでね」
「毎日送ってくれてもいいんだぞ?」
「ははっ、そうだね…そうしようかな」
「マリンちゃん…約束よ?」
「うん…約束するよ、お母さん」
「ふふ…マリンちゃんは…いい子ね」
そう言いながらお母さんも、僕を抱きしめた。
急に、もうこの日常は終わるんだな~なんて思った。
心に小さな穴が開いたような感覚。
手放しくない心地よさ。
でも僕は行くよ。
クララが待ってるから。
お父さん、お母さんも、それは分かっている。
だから、止められるような言葉は言わなかった。
それどころか、僕を応援してくれる言葉の数々。
2人を裏切るような事はしたくない。
だから僕は、頑張り続けるよ。
きっと何かを得て帰ってくる。
その時はまた、暖かく迎えてほしいな。
10年間のプロローグ。
僕はここから、1歩を踏み出した。
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