第2話 さっそく中学のクラスメイトと遭遇したんですが
ㅤ俺の受験した高校は結構遠目なので電車通学になる。
ㅤまだ乗りなれてないためか若干の緊張が走る。
ㅤだがそれよりもこれからの高校生活のことが心配で心配で仕方ない。
ㅤ緊張でバクバクの心臓をなんとか収めつつ電車に乗る。
「ちゃんと変われるかなぁ…」
ㅤそんなことをずっと考えていたからか、思っていたことを声に出してしまい若干の注目を浴びる。
ㅤ(恥ずかしい…)
ㅤ向けられる視線に耐えられず体の向きを変えると、見覚えのある顔が視界に入った。
ㅤ
ㅤ頭脳明晰、スポーツ万能、それでいてスタイルもよく美人、いわゆるマドンナ的な存在だったと思う。
ㅤ俺と花見は三年間クラスが同じだった。それが関係あるかはわからないが、花見さんを見習えと言われることが多かった。
ㅤ俺も性格さえ良ければああいう風になれたのかもしれない。
ㅤそんなことを考えながらも、中学時代の俺はゴミだったしいい印象も抱かれていないだろうから、話しかけようとも思わず花見から視線を外そうした時にふと気づく。
ㅤ(なんかあいつ顔色悪くないか?……)
ㅤいや顔色が悪いというか、なにかを我慢しているような表情とかいうか……それによく見ると体も小刻みに震えている気がする。
ㅤ(これはなにか良くない事が起こってる気がするな…)
ㅤ
ㅤ悟られないようにさりげなく花見の近くに移動する。
ㅤそうするとやはりというか……これは痴漢だろう。
ㅤサラリーマンだろうか、30代後半ぐらいに見える男が完全に花見の尻を触っている。
ㅤどうするべきだろうか……確かに花見は元クラスメイトだが逆に言えばそれだけであり、助ける意味もなければ義理もない。前の俺なら確実にスルーしていたと思う。
ㅤだけど俺は変わると決めたし、中学時代花見に嫌な絡み方をしたこともあるし、それの償いもしたい……ここで助けなかったら次いつ会えるか分からないし……なら俺がすることはひとつしかないだろう。
ㅤ俺は男の手を掴んだ。
「おい、痴漢はだめでしょ」
「は、は!?ふ、ふざけんな!俺は何もやってない!」
「とぼけようとしても無駄だからね、動画撮ってるから」
「……ッ!」
「次の駅で降りようか、おっさん」
ㅤもう無理だと悟ったのかさっきまでの抵抗は消えた。
ㅤ花見は大丈夫だろうかと思い花見がいる方に視線を向けると困惑と安堵が混ざりあったような表情で俺の事を見ていた。中学時代の俺はこういうことするたいぷじゃなかったし、仕方ないだろう、俺のまいた種だ。
ㅤ次の駅で花見と男を連れて電車から降り、駅員に事情を伝えると「色々と話を聞くことになるからここに残ってくれ」と言われてしまった……念の為かなり早めに家を出たが、それを加味しても多少の遅刻は覚悟した方がいいだろう。
ㅤスタートダッシュが肝心だと言ったばかりなのに……まぁ仕方ない。
◇◇◇
ㅤ取り調べが終わり無事遅刻が確定した。とほほ……
ㅤ出来るだけ早く学校に行かなければ思い移動しようとしたところを花見に呼び止められた。
「あ、あの!助かりました!ありがとうございます!」
「あ、あぁ、全然大丈夫」
ㅤそんな会話をかわすと花見がじっと俺の事を見つめてくる。
ㅤなんなんだ……もしかして寝癖があるとか!?
「間違ってたら申し訳ないんですけど……如月くん……だよね?」
「そうだけど」
ㅤまぁ流石にバレてるよねぇ……俺が変えたのは中身の方であって外見ではないから気づかれるとは思っていた。
「ま、まぁ!無事でよかったね!じゃあ俺はいくわ」
「ま、まって!あの……お、お礼とかどうすれば……」
「ほんと気にしなくていいから、俺急いでるし、花見さんも多分入学式だろうし急がないとでしょ?」
「そ、そうなんだけど……如月くんなんか変わった?……」
「ま、まぁ俺にも色々あるってことで、じゃ!」
「あ!ま、まって!」
ㅤ引き止めるような声が聞こえるがなんか気まずかったし、出来るだけ急いで学校に向かいたかったので強制的に会話を終わらせ走り出した。
ㅤはぁ……変わると決めた1歩目がこれか…だいぶハードだったな…
ㅤ
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