AM:3:59

第1話

どうやらまたトラブルがあったらしい。

しかも只事じゃない。



さっきからソファの上で、鳴っては切れて。切れては鳴ってを繰り返す自分の携帯を俺は横目で睨む。



俺たちの組織、ラプター社の朝は早く夜は遅い。



「……はい三池です」


「ミケ。緊急事態だ。動けるか?」



AM3:59。

許されている筈の僅か30分の仮眠時間も時に剥奪される。珍しい事ではない。



俺のミイケという苗字をミケと略すのは古くからの仲の人達だけだ。



「要(カナメ)さんか…、またどきつい仕事を俺に任せるんでしょう?」



要アキト。ラプター社の中でも数人しかいないアンダーボスという最高幹部の中の一人。選ばれし精鋭だ。


そんな男が俺の言葉に「何故分かった?」と苦笑した。



「お前今何処だ?無事帰国したか?」


「えぇ。日本ですよ。白金の自宅です。最終便でカターニアから帰国して本社で弾を補充してついさっき自宅に。その途中に、多忙過ぎて手が回らないらしい緒方さんから電話が来て、今から仮眠をとって銀座に行くんです」


「少し休んだらどうだと言ってやりたいところだが、今週中にパレルモに行って欲しいんだ」


「パレルモですか?」



パレルモはカターニアのすぐ近くだ。


カターニアには3ヶ月間もタッグを組んでいた班が残っている。俺仕込みの手練れたちだ。その班のソルジャーをパレルモに派遣した方が、日本にいる俺を行かせるより容易な筈だ。



「ついさっき、殲滅されたよ。殆どのソルジャーが殉職した。生き残ったのは数人だ。ソイツらはパレルモに待機していた班に合流させた」



…まただ。



「また、俺の部下たちが死んだんですね」


「…ミケ。自分を責めるな。お前が強すぎるだけだ」


「………」


「お前は賢すぎて、強すぎて、強運すぎる。誰かと共に死ぬ事はきっと無い。…そして、長くラプターに居ればその分別れも多い」


「……はい」



要さんの後ろは騒がしく、俺の返事は多分届かない位に小さかった。

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