第10話  新たなチャレンジ


長らく続けてきたサークル活動は、私に様々な学びと仲間を与えてくれた。

そしてその中で、心の中に新しい挑戦への思いが静かに芽生えていった。

その思いは、日に日に私の中で形を持ち始め、やがて「猫」をテーマにしたエッセイ集という具体的なアイデアとしてはっきりと浮かび上がった。


これまで、サークルやワークショップで、猫と触れ合う中で感じた心の安らぎや癒し、彼らの無邪気さに触れることで湧き上がる感情について、少しずつ語ってきた。

そして何より、参加者や仲間たちから寄せられる共感や、彼ら自身が猫と接する中で得た体験談を聞くたび、猫という存在が多くの人にとって心の拠り所であることを実感した。

私自身の猫たちとの暮らしもそうだった。

日々の忙しさや悩みを忘れさせてくれる彼らのまなざし、そばで寄り添うぬくもり、それらすべてが私の支えとなっていた。


「この思いを形にしてみたい」。そんな気持ちが、日に日に強まっていった。


  ー新たな一歩: エッセイ集の構想ー


本の執筆を決意したとき、真っ先に浮かんだのは「猫とのふれあいがもたらす心の安らぎ」を伝えたいという思いだった。

エッセイ集の中で、私は「心の安らぎ」「自由」、そして「自己表現」という三つのテーマを軸にして、猫が私たちに与えてくれるものを描こうと決めた。 

猫と共に暮らすことで感じる穏やかな時間や、彼らが見せる気ままな姿に触れることで得られる新しい視点、そして猫が持つ独特の表現方法が、私にとってどれほど大切なものか。

それらを一つ一つ掘り下げ、作品の中に込めていくことにした。


エッセイ集を書くにあたり、まずは自分自身の経験を振り返ることから始めた。

どの瞬間が自分にとって特別だったのか、どの言葉や仕草が心に響いたのか。

ふとした時に膝に乗ってくる猫の重み、眠る前にそっと寄り添うぬくもり、心が疲れた日にただ静かにそばにいてくれる優しさ――それらを思い出しながら、一つ一つ言葉にしていった。


     ー執筆の楽しさと喜びー


日々少しずつ書き進めるうちに、私は「書くことの楽しさ」を改めて実感していった。

言葉にすることで自分の気持ちが整理され、次第に作品が形を成していく感覚。

書き進めるたびに、エッセイ集が完成に向かって近づいていく期待感が高まり、執筆は単なる作業ではなく、自分の心を解き放つための大切な時間となっていった。


猫たちが私に教えてくれたのは、「心を許すことの大切さ」だった。 

彼らは気分が乗らなければ寄りつきもせず、甘えたいときには躊躇なく身を寄せてくる。

そんな自由で正直な生き方は、私にとって羨ましくもあり、憧れでもあった。

人と人との関係の中では、どうしても相手に合わせたり、自分の気持ちを抑えたりしてしまうことがある。

しかし、猫たちは決して自分を偽らない。

その無垢さと強さが、私にとって大きな教訓であり、彼らがいるからこそ、私は自由に、正直に自己表現を追求する勇気をもらえるのだと感じた。


ある日、いつものようにカフェで執筆に集中していると、ふと隣のテーブルに座っていた一人の女性が私を見つめていることに気づいた。

視線を感じて顔を上げると、彼女は少し恥ずかしそうに微笑みながら、「もしかして、執筆中ですか?」と声をかけてきた。


「ええ、そうなんです」と答えると、彼女はさらに興味を示し、「実は、私も猫を飼っていて……猫について書いているんですか?」と尋ねてきた。

その瞬間、偶然の出会いが嬉しくなり、私は猫について語り合うことにした。

彼女もまた、自分の猫との思い出や、日々の小さな幸せを語り始め、私たちはまるで古い友人のようにお互いの猫への愛情を共有しあった。


その出会いは、私にとってまさにインスピレーションの源となった。 

彼女が語った猫の癖や、猫との生活の中で感じたことが、私の頭の中で新たなエピソードとして膨らんでいくのがわかった。カフェでの一瞬の会話が、私の中に新しい物語の芽を生んでくれたのだ。


     ー進む執筆と心の変化ー


エッセイの執筆が進むにつれ、私は自分が書きたいテーマが次第にはっきりしてきたことに気づいた。猫とのふれあいの中で得た「心の安らぎ」、それは単なる癒しの感覚だけではなく、もっと深い意味を持っていた。

猫と過ごすことで、自分の内面を見つめ、日々のストレスや疲れから解放される瞬間が訪れる。

そのとき、私は一種の心の浄化を感じるのだ。エッセイには、そうした心の動きをリアルに描きたいと思った。


また、猫がもたらす「自由」というテーマも重要だった。

彼らの気ままさは、私にとって憧れであり、理想的な生き方を教えてくれるものだった。

自分を抑えることなく、他人の評価を気にすることなく、自分の気持ちに正直に生きる姿は、私自身がそうありたいと思う生き方の一つの形だった。


執筆が進む中で、私は少しずつ、自分の心が変わっていくのを感じた。

猫と共に過ごし、そのふるまいに触れることで、自分自身もまた自由でありたいと強く思うようになってきた。  

そしてその自由さこそが、本を書く原動力となっていることを改めて実感した。

猫と向き合うことで、私は自分の内面と対話し、心の奥底にある「自己表現」への思いを深めていったのだ。


   ー執筆の壁と再び見つけた喜びー


時には筆が進まない日もあった。

どれだけ考えても言葉が出てこず、白紙のページを見つめるばかりのこともあった。

猫が寄り添ってくれても、その暖かさが逆に焦りを煽ることもある。

書きたい気持ちはあるのに、どう表現していいか分からないもどかしさが、何度も私を悩ませた。


そんなある日、ふと窓の外を眺めていると、一匹の猫が道端でじっと座っているのが見えた。

周囲の人や車の音に動じることなく、ただ静かに佇んでいるその姿に、なぜか心を奪われた。

その猫の姿はまるで、「焦ることはないよ」と私に語りかけてくれているように見えた。


その瞬間、私は自分が抱えていた不安や焦りが、いかに小さなものであるかを悟った。

猫たちは日々を「今この瞬間」に生きている。

それは彼らにとっての自然な姿であり、私もその姿勢を見習うべきなのかもしれないと思ったその気づきから、私は再び執筆に向き合うことができるようになった。

焦らず、猫たちのように「今この瞬間」に集中する。

それを心に決めてからは、言葉が少しずつ自然に出てくるようになり、自分の思いを無理なく言葉に載せられるようになっていった。


カフェでの執筆も続けた。

ふと筆を止め、コーヒーを一口含んで、頭を空っぽにする。

その短いひとときに、不意に猫との思い出が頭をよぎることがあった。

夜更けに目が覚めると、私の足元で猫が丸くなって眠っていたあの光景。

雨の日、窓辺から外を見つめる猫の後ろ姿。

それらの記憶が心の奥底で静かに輝き出し、その瞬間の温かな気持ちをそっと言葉に込めた。


   ー偶然の出会いと新たな視点ー


ある日、いつものカフェで原稿を執筆していた時、隣の席に座っていた女性が、私の様子を興味深そうに見つめていた。

視線に気づいて顔を上げると、彼女は少し恥ずかしそうに微笑み、声をかけてきた。


「書いているのは本ですか?」と彼女が尋ねたので、「ええ、そうなんです。猫との日々について書いています」と答えた。


彼女の顔がぱっと明るくなった。

「私も猫を飼っているんです」と、嬉しそうに話し始めた彼女の言葉に、私の心も温かくなった。

彼女の猫は気まぐれで、いつも自由に振る舞い、彼女の生活に小さな波を立てる存在だという。

話が進むにつれ、私たちは自然と猫のエピソードやその仕草の可愛さについて語り合っていた。


彼女の話を聞きながら、猫の存在が持つ奥深さに改めて気づかされた。

猫たちは、ただの「癒し」以上の存在であり、生活や心の在り方に大きな影響を与えてくれる特別な存在だ。

その偶然の出会いが、私の執筆に新しい視点をもたらし、猫たちの存在の大切さをさらに感じることができたのだった。


   ーエッセイ集の完成に向けてー


カフェでの出会いや、猫たちとの日常のふれあいが、私の執筆に絶えずインスピレーションを与えてくれた。

そして、一日一日と言葉を積み重ねるうちに、エッセイ集が少しずつ形になり始めた。


猫との生活を描いたエピソードをまとめる中で、「心の安らぎ」「自由」、そして「自己表現」という三つのテーマが、一冊のエッセイ集に一貫した軸となっていることに気づいた。

猫たちはただの愛すべきペットにとどまらず、私の心に安らぎをもたらし、時には新しい発見をもたらす存在。

そして何よりも、彼らが私に教えてくれた「自由な自己表現」が、私自身を強く支えてくれていることを改めて実感した。


また、サークルの仲間たちからも貴重なアドバイスをもらった。 

彼らは私のエッセイの草稿を読み、率直な感想や気づきを与えてくれた。

彼らの意見を通じて、自分が伝えたいことをさらに明確にし、読者にもっと共感してもらえるような形に仕上げるためのヒントが得られた。

こうしたやり取りが、私にとって大きな励みとなった。


エッセイ集は、もはや私だけの作品ではなくなっていた。

猫たちとの暮らしやサークル仲間の支え、そしてカフェでの偶然の出会いなど、多くの人や出来事がその中に息づいている。

私にとっての大切な記録であり、かけがえのない思いが詰まった一冊へと少しずつ形を変えていったのだった。


    ー出版への準備と最後の仕上げー


エッセイ集がほぼ完成に近づいたある日、私は初めて出版社へ原稿を持ち込む準備をすることにした。手にした原稿を見つめると、胸が高鳴り、少し緊張している自分がいた。

自分の書いたものが一冊の本として世に出るということの重みを改めて感じ、期待と不安が入り混じった複雑な気持ちだった。


出版社に出向くと、担当編集者が丁寧に原稿を読み始めた。

猫がもたらす安らぎや、自由な生き方への憧れをテーマにしたエピソードに目を通し、時折うなずきながらページをめくっていく様子が見えた。

静かな部屋に響くページをめくる音が、緊張をさらに高めていく。


やがて編集者が顔を上げ、柔らかい笑みを浮かべて言った。

「この作品には、猫という存在を通して自分の心と向き合う姿が、とても丁寧に描かれていますね。猫好きの方はもちろん、多くの読者に響くものがあると思います」と。


その言葉を聞いた瞬間、心にあった緊張がほぐれ、私はほっと息をついた。 

この作品が誰かの心に届く可能性があるという確信が、私の中に静かに広がっていった。


     ー最後に込めた思いー


エッセイ集の最終的な手直しに取りかかりながら、私は猫たちとの日々がどれほど自分にとって大切なものだったかを改めて実感した。

猫とのふれあいが教えてくれた「安らぎ」「自由」、そして「自己表現」。

それらは、私の心にとってなくてはならないものだった。


猫は何も言葉で語らない。

しかし、彼らは存在そのものが語りかけてくるようだった。

日々の何気ない瞬間の中で、彼らは静かに私に語りかけ、そばにいてくれた。そんな猫たちの存在が、私にとってのインスピレーションであり、創作の原動力であったのだ。


エッセイ集の最後のページを書き終えたとき、私は小さな達成感とともに、深い感謝の気持ちを覚えた。

サークルの仲間たち、カフェで出会った人々、そして私の心に寄り添ってくれた猫たち――彼らのおかげで、この本が完成したのだという思いが胸に広がっていった。


エッセイ集は、猫たちとの日々を通して私が得たものを、そっと読者に届けるための大切な贈り物のように感じられた。

この本を手に取る誰かが、私が猫たちと過ごした時間の温もりや、心の奥に秘めた気づきを感じ取ってくれたなら、それ以上の幸せはないと思った。


こうして私は、新たなチャレンジを果たした自分に少しだけ自信を持ちながら、次のステップへと静かに足を踏み出す準備を始めたのだった。

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