第9話 野営と作戦会議

 城門に整列した陣容を眺めて、いよいよ出陣するのだと己の気持ちを引き締めた。

 馬上から副官の洪有徳に出立の指示を出す。

 洪有徳が全軍に「進軍!」と号令をかけ、騎馬隊を先頭に重装歩兵、軽装歩兵、弓隊、輜重隊が徐々にゆっくりと動き出す。

 次の野営予定地に到達するまでに兵の練度を確認したり、士気を高めたりする以外にすることが無い。


 最初の野営地に到着したので、輜重車に積んであった各幕舎(テント)の設営、兵の配置や警備などの指示を出して野営の支度に取り掛からせた。

 幕舎は指揮官・将軍用、士官用、一般兵用、作戦会議用、武器や食料を保管する輜重用の幕舎があり、それぞれ設営する。


 浩然は最初に設営された将軍用の幕舎に案内された。

「俺は一般兵と一緒の幕舎が良い」と声を上げた。

 すると、侍従の俊宇に「浩然様、それはなりませぬ!」と言下に否定された。

 さらに副官の洪有徳が「将が一般兵の幕舎にいては、軍の士気が低下いたします」

「敵の襲撃に臆して一般兵に紛れているように誹られてしまいますし、警護の体制が

 弱く信用できないように受け取られて良いことはありません」

「将は堂々と立派な幕舎にいることで威厳を示すことができます」

「警護は十二分な体制で行いますので是非この幕舎にお入りください」

 と強く説得された。

 浩然はそれでも嫌がったのだが、夜襲があった場合に守備兵が駆けつけやすい中央にあって目標になるとの追い打ちの説明で将の幕舎に入ることになってしまった。

「そんな、もんか。分った」と大人しく従ったのだが、二人の笑い顔が気になる。


 全ての設営が終わったので、作戦会議用の幕舎に洪有徳や俊宇、軍師を呼び寄せて、これまで得られた盗賊の情報を反芻しつつ作戦を検討することにした。

 盗賊という扱いであったが、近隣の複数の村での被害は食料や一部の日用品のみであったようである。

 また、それなりの規模の集団で複数の村の襲撃があったが、焼き討ちや婦女子の誘拐も行われず、暴虐の限りを尽くすわけでもないようで比較的速やかに撤退しているらしい。

 さらに、州軍と小競り合い程度の戦闘があったのだが、妙に行動自体統率がとれているように感じたとの報告があったらしい。

 となると、こちらの勢力や装備や防衛体制を把握するために小規模交戦をしかけたとも考えられる。

 上記のような状況を総合的に判断すると、どうやら隣国がヒットアンドウェイが得意な機動力がある部隊を威力偵察のために派兵し、その支援部隊も派遣してきたように思える。

 その推論が正しいとすれば、敵の兵力は100名以上になり、小規模ながら戦争となるかもしれない。

 もし隣国の侵攻の前触れであるならば、今回の任務は盗賊全員の殲滅ではなく、他国兵との戦闘になる。

 そして、作戦の主目的はある程度は掃討し、捕虜を確保して多くの情報を得ることが最重要になるという結論になり、全員が納得した。

「では、この結論と作戦の変更を皇帝陛下に報告する。皆、良いな」

「「はい!!浩然様」」

 この作戦会議の結論を皇帝に報告するべく文を書き、騎兵の伝令兵に託した。


 その後に一段落したので、休憩と食事をとることにした。

 宣言通り、一般兵と同じものを一緒に食すということを実現させた。

 あまり、洪有徳や俊宇はいい顔をしなかったが押し通した。

「ほー、これが粟粥か、豆が入っているな。途中で農民から仕入れたのか?」

「はい、仰せの通りでございます。ちゃんと銭を払いました」と士官が:答えた。

「それなら、良い」

 「とても旨いとは言いえないが、暖かいものは良いな」と隣の兵に話しかけた。

 皇子に話しかけられて兵は緊張しているのか、声が出ないようだ。

 ひたすら何度も頷いて、周りの兵に救いを求めるように見回していた。

 その様子で少し可哀そうな気がした。

「浩然様、あまり気安いと兵は粥でさえ喉を通りませんよ」と俊宇。

「そうか?」とまた兵に問うと、さらに兵は動揺し目が泳いでる。

「浩然様、そろそろ幕舎にお戻りになられては」とまた俊宇。

 どうも、この状態は歓迎されてない様子は鈍い俺でも感じた。

 明日以降は己の幕舎で食事を取ることを決めた。

 後で俊宇に話そうと想い、席を立ち己の幕舎に戻る。

 帰りながら胸の内では(元来俺は異世界から来た一般人で、共に戦う兵と気持ちが通じ合うこともできないなんて皇子って面倒臭い生き物だと)嘆いてしまう。

 でも、そのうち打ち解けてくれるかなと淡い期待を抱きながら・・・


 その後の進軍は順調で野営もトラブルは起きなかった。

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