第7話 癒しオーラ1

地道な事務仕事が終わり、会社を出ようとエレベータに乗り込むと、後ろから同僚のたちばなが乗り込んできた。中途で入社したという点では共通項がある。それと猫派という点位だろうか。


「お疲れ様です」


「お疲れ様です。週一とはいえ疲れますね」


眼鏡を中指で押し上げると橘が呟く。声が基本小さいのだが、流石に年単位で同じ部署にいれば聞き取れる様になるものだ。今日も眠たそうな眼差しをしている。


「そうですねぇ。橘さんどの辺の席にいたんですか?」


「澤村さんのかなり斜め後ろです」


いたの気がつかなかった・・

フリーアドレスもいいのか悪いのか


「そうなんだ。あ、家の猫は元気ですか?」


彼は猫を飼っていて溺愛している。そのため、表情が普段乏しいのにガラッと変わるのが面白い。


「よく聞いてくれました!これ、最近のうちの猫なんですけど、可愛すぎて」


黒猫が床面に甘えた様子でお腹を見せている。


「へぇ、可愛い。何歳になりましたっけ?」


「五歳です。疲れてても、こういうの見るとがんばろうって思えます」


「いいなぁ。なんか」


俺にはそんな対象がないし


鼻の下を伸ばしている橘は通常では想像できないだけに、猫の可愛さの破壊力を感じる。


「飼えばいいじゃないですか。澤村さんも」


「うーん。世話しきれるかなぁ。自信ないんで」


「なるほど。慎重なのはいいことですけど。あ、じゃあ、ここで」


「はい。じゃ」


路線が異なるため、駅で二手に別れた。


癒しオーラか


別にそういった出会いが無かった訳でもないのだが、長続きしない。相手が求めているものと、自分のもっているものがおそらく違うのか、自然消滅してしまったりする。電車の車窓から街の灯りが明るく見えているが、自分の心は満たされない何かを抱えているのだった。




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