第2話 万年筆2

17時にセットしていた小鳥のアラームで起きた。半身を起こして欠伸をする。枕元に置いた中和薬を飲んだ頃、頭がようやく起きてきた。


ヨガマットを敷いてストレッチをする。モーニングルーティンは変えた事はない。窓を開けて空気の入れ換えをする。空は既に暗いが、深呼吸をする。


カラスの声を聞きながらノートパソコンを起動し、スマホのメッセージアプリをチェックする。担当とのやり取りは締切前ではないので後で見ることにしした。


ダンピールユニオンのホームページに飛び、中和薬のストックをカートにいれ、会計を済ませていると着信が通話アプリからあった。


四宮しのみやさん、進み具合どうですか?』


「・・まぁまぁかな」


『一一今、うっかり出ちゃったってなって思ったんじゃないですかぁ?』


「いや、そんなことは、はは、はは」


担当の柚木ゆずきだった。出ると作品の進捗を聞かれてしまう危険性があるため、筆が進んでいる時のみ電話の方は出ていたのだが、寝起きは間違えて電話にでやすい。これだからいけないのだ。


「ない。ないよ。おはよう」


『おはよう、なんて随分のんきじゃないですか。「悪霊探偵 来夢」の続編どうするんですか?』


きたきたきた


柚木は人間だが、別にそんなことで優位には立てないこの世の中だ。我々ダンピールが日本に発見されて早100云年経た今、すっかり社会に溶け込んでいる。


ヴァンパイアが一部の精鋭ダンピールにより退治される様になり、大分経つ。それ以外のその他のダンピールは、生業なりわいは各々異なるが、働かねばダンピールユニオンへの加盟は取り除かれてしまう。そして結果として、血液パックも人工血液も中和薬も買えず血を求めさ迷い、人間により死刑される末路が待っているのだ。


人間は怖い

ダンピールより数も結束力も上だ


「怖い怖い」


『茶化さないで下さい!こっちは仕事なんです!』


怒ってる

うぅ…墓穴を


「ごめん。何とか構想を練ってみてから」


『連絡お願いしますね。無かったらまた連絡しますので。あと来週伺います』


「うん、あ、はい」


『失礼します。読者も僕も期待してますから』


「ありがとう…頑張る、あれ」


モゾモゾ呟いていると電話は切れていた。



そこから考え続ける事数時間、しかしながら何も思い付かず閉めきっていた窓を開け、トマトジュースを飲む。冷蔵庫に血液パックもユニオンから取り寄せてあるが、あれは一週間に一パックと決めているためだ。美味しいが高いから、そうそう買えない。その習慣も最近では人工血液で済ます場合もある。


「あの~」


ペン回しをしていたら、気に入っている万年筆が隣の部屋のベランダへ転がっていってしまった。声をかけておこうと思い立つ。


「え」


驚いている様だ。それはそうだろう。突然すぎる。


「すいません。そちらに万年筆が転がってしまいまして、えぇとですね、こちらに転がしてもらえると有りがたいのですが」


「は、はい」


いい人だ。やや掠れた低音なので男性らしい。今まで昼夜逆転生活のため気にした事も無かった。


「ありがとうございます。助かりました。お休みなさい」


返事は無いが、伝えておくべきだろう


転がってきた万年筆を有り難く手に取った。お休みなさいという時間なのでそう伝えておいたが、隣人と会話したのは初めての経験だった。
















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