もしも俺が総理になれたなら
沼津平成
第一章 ホームレス・鈴木(仮名)の場合
第1話
元社畜。現在ホームレス。
そんな俺のことを、世間はどう見るだろう。
ここは大阪、ホームレスの溜まり場。
通天閣など程遠い。天王寺動物園などもってのほか。歩けばすぐ行けるのだが、係の人に嫌な目をされる。
「ホームレスさんはここに入る資格などありませんよー」
って、素直に煽ればいいのだが。
嫌な目でとどまらせるところ、さすが大阪だなって、うん、おもうんよ。
でも大阪にだって、いいことがある。
大阪の人間がみんな、あの嫌な目をするやつみたいに悪者ではないところだ、悪者から見て。
人情があるところだって大阪にある。例えば古い定食屋だ。
外装からしてすでに古く、次に震災があればもう立ち直れなさそうな、あの定食屋。
カウンターを囲むとスープの湯気が漂う。不思議と、定食屋に入る時自分は壊れる寸前で、そこでやっと自分の治し方とやらを悟るのだ。ロボットみたい。
そんな俺は今自分が何歳だか知らない。履歴書。いつだったかひったくられた。ひったくりはあの履歴書をどんな目的に使ったか知らない。
きっとあのひったくりも俺みたいに人生が壊れた輩なのだろう。そして、1からやり直そうとしている。それならまあいいか。でも、俺の履歴書盗んだところで、人生変わるかな?
そんな俺は元社畜なので持久力が高い。しかしぶっちゃけ安全性の低いといえば低い大阪で暮らしていると、そんな持久力でさえぶっ壊れる。微雨にあたって、あの懐かしい労働に思いを馳せる。
——今と、どっこいどっこいかな。
いやいや、とその思いを打ち消す。あんな企業の社畜なんてごめんだ。
——じゃあ、一生大阪暮らし?
うーん、それもやだな……って、嫌だ。
自分の思考が、「嫌だ」って感覚だけが、やっと大阪に入って戻ってきたのだ。
この感覚は大事にしなきゃ。
*
転職する勇気もなく、俺は普通に倒れていた。大阪じゃ路上寝は「日常」と言ってはいけないが、この近くでは咎めるものは少なかった。
大阪にも平和なエリアがあるが、ここは平和ではなく、治安が良いとはあまり言えない場所だった。俗に言う無法地帯? 社畜は社畜としての感覚をも無くし、無法地帯に入り込んだのである。
やっとの勇気をあの場所から逃げ出すことに使うなんて、馬鹿げてるよな。
そう言って笑う相手も、今はもう、いない。
もしも俺が総理になれたなら 沼津平成 @Numadu-StickmanNovel
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