第11話

心は男子達を追っ払うために咄嗟に長谷部想の名前を出したのである。

所がその日の放課後、心がバスケ部に向かっていた所を後ろから呼び止められた。

振り向いてみると、そこに立っていたのは長谷部想である。

心は勝手に名前を出したので、些か気まずかった。

想は隣の1年B組だった。

「逢沢さん。ちょっといいかな?」

「ごめんなさい。私、部活があるの」

「俺もだよ。だから体育館の裏で」

心は想に付いて体育館の裏まで行った。

誰もいない事を確かめると、想は心の方に向き直った。

「逢沢さん、昼間に言った事だけど、

嬉しいよ。俺も逢沢さんの事好きだから…… 」

えっ⁈

心は驚きのあまり言葉も出て来ない。

「俺と付き合ってくれないかな」

「あ、あの…… 」

心の胸に大きな痞えが出来て、言葉を遮ってしまう。

「ごめんなさい……!」

心は想に向かって思い切り頭を下げた。

「えっ?」

想には意味が分からない。

戸惑いの顔を心に見せる。

「クラスの男子達に、好きな人の事でからかわれて……つい長谷部君の名前を出してしまったの」

「…… 」

想は何も言わない。

「長谷部君は人気が高いし、つい咄嗟に…… 」

「つまり俺の名前を勝手に使ったって事?」

「本当にごめんなさい!」

「でも……どうして俺の名前が出たのかな。逢沢さんの中に俺がいたって事だよね」

「それは……長谷部君、女子に人気あるし」

「他の子の事なんてどうでもいいんだけど。そう言う事だよね」

心は困り果てていた。

「お詫びに……俺と一度デートして欲しい」

想の言葉を聞いて、心は弾かれたように顔を上げた。

「ごめんなさい。それは出来ない」

「他に好きな人がいるんだね」

心は黙って頷いた。

「ごめんなさい…… 」

「俺、逢沢さんの事ますます好きになったよ」

想は優しい笑顔を見せた。

「正直なんだね」

「…… 」

「俺は諦めないよ。またそのうち告白するから宜しく。じゃあ部活あるから!」

想はそのまま体育館の入り口に走って行った。

心は少しの間茫然としていたが、やがて体育館に向かったのである。

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