幸せの足音

水島あおい

プロローグ

第1話

「筒井君、今日、バレンタインだから、

これ…… 」

屋上にいた筒井に、氷室幸はおずおずとチョコレートの箱を渡そうとした。

途端に筒井が不機嫌な顔になる。

「何でお前がこういうイベントに参加できるわけ?自分の顔見て言えよ」

筒井は呆れたように言った。

幸は俯いて涙ぐんでいる。

「ブスが泣いたら余計見られないぜ」

筒井はそのまま行こうとした。

その時である。

給水塔の裏で寝ていた男子生徒がやって来た。

妹尾涼真だ。

「さっきから聞いてたらなんだよ、その言い方は!彼女に謝れよ!」

「何だよ。妹尾。お前には関係ないだろう?」

「謝れって言ってるんだ」

涼真は完全に筒井を見据えている。

迫力があった。

「さあ、早く」

「ごめん、氷室」

筒井は渋々謝ると、屋上を飛び出して行った。

幸は目を開いたまま、今の状況を見ていた。

涼真はそのまま屋上を後にしようとした。

「あの、妹尾君!」

幸は思わず声を上げた。

涼真は足を止めた。

「ありがとう…… 」

幸は涙ながらに言った。

涼真は幸の前まで歩いて来た。

「そのチョコ、俺にくれないかな」

「え?」

突然の涼真の言葉に幸は戸惑うばかりである。

「やっぱ、唐突過ぎたかな」

幸は涙をポロポロ零している。

幸は泣きながら首を振った。

「信じられなくて…… 私のチョコを受け取ってくれる人がいるなんて」

涼真は幸に手を伸ばした。

「でも、これは渡せない。筒井君にあげようと思ってたものだから」

「やっぱ可愛いな。氷室は。筒井は女見る目ないな」

涼真の言った言葉を聞いて、幸は仰天してい

た。

今、なんて言ったの?

私を可愛いと言ったの?

ブスでデブのこの私を?

「じゃあ、もう行かないといけないから」

涼真は屋上を後にした。

幸は思わず屋上のコンクリートの床に座り込んでしまった。

妹尾君と話をした。

学園人気ナンバーワンの妹尾涼真と。

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