第30話

劇団わかばでも毎日厳しいレッスンが続いている。

発声練習、パントマイム、喜怒哀楽の表情などから始めて、響は今主演の映画の演技指導を受けていた。

個人練習なので、他の劇団員が帰った午後9時から行われている。

台詞の解釈が出来ていない所があって響はもう5回も同じ台詞を繰り返していた。

「そうじゃない!台詞の中に深い哀しみが感じられない!もう一度!」

演出の千葉が声を荒げた。

「俺の事なんて……どうでもいいんだろう?」

響は声を震わせた。

目には涙が溜まっている。

「そう。その表情を忘れないで。自然さに観客が入って来れる」

時刻は10時になった。

「では今日はここまでね」

「ありがとうございました」

千葉がレッスン室を出ると、響はタオルで顔の汗を拭い、マイボトルの緑茶を飲む。

「車回しておくから」

真野はレッスン室を覗いてそう言った。

響は更衣室で着替えを済ませると、スポーツバッグを持ってビルの外に出た。

既に黒い車が停まっている。

響は後部座席に座ると、大きく息を吐き出し

た。

「お疲れ様」

「ああ、疲れたよ。やり直しばっか」

「でもそのお陰で本番で殆どNG出さないじゃないか」

「まあな」

響は後部座席のシートに持たれた。

響は流れていく夜の街をぼんやり見ながらふと思った。

瀬名ちゃんの怪我の具合はどうなんだろうか?

「真野、ちょっと寄って欲しい所があるんだけど」

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