第10話

瀬名は無論そんな事は知るわけもない。

全日本選手権に向けて益々張り切って練習を重ねている。

全日本選手権はシニアの試合なので、プログラムを30秒伸ばしている。

瀬名はその曲を踊り続けていた。

午後8時が来てリンクサイドに母親の姿が見えた。

「お母さん、ごめん。後5分だけ」

「ダメよ。瀬名。今日はもう十分だから上がりなさい」

母親はそう言って瀬名を止めた。

そうしないと、何時間でも踊り続けているからだ。

「はーい」

瀬名は渋々リンクサイドに戻って来た。

エッジカバーを付けて更衣室に向かって歩いて行く。

「何処がそんなに納得出来ないの?」

「トリプルルッツが決まらないの」

瀬名は苦い顔で言った。

「明日には跳べるようになるかもよ」

「そうかな」

「そうよ」

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