第12話

晃也は誰もいないスケートリンクで1人

トリプルルッツの確認をしていた。今日はどうもジャンプのキレが良くない。

愛はこのスケートリンクの会員になったので、リンクサイドに行って見学する事が出来た。

誰もいないリンクサイドに立って、晃也の姿を見つめる。

愛には声を掛けて、練習の邪魔をする気は無かった。

晃也の真剣な眼差し、そしてエッジが氷を描く音だけが聞こえる。

既に時刻は午後9時半になっていた。


晃也がふとリンクサイドに視線を向けると、白いワンピースの上に赤いカーディガンを羽織った愛が立っていた。

「愛ちゃん、来てくれたの?」

晃也はリンクサイドに滑って来た。

「ごめんなさい。邪魔をする気は無かったんだけど、一目でも逢いたくて」

晃也は10月だと言うのに、汗びっしょりである。

愛は自分のスポーツバッグの中から、白いタオルを出すと、晃也の額に溢れ落ちる汗を拭った。

「ありがとう」

晃也はマイボトルの飲み物を飲んだ。

愛が誕生日にプレゼントした緑のボトルだ。

「愛ちゃんも、今まで仕事だったの?」

「うん」

愛は晃也を見つめた。

「帰りは大丈夫?」

「マネージャーが待ってるから」

「そう。明日は学校に来る?」

「明日は無理なの。次は明後日」

「忙しいんだな」

「芹沢君こそ、毎日練習大変だよ」

晃也は愛のタオルで顔全体を拭うと、

眩しいような笑顔を見せた。

「スケーターだからね。愛ちゃんのお陰で練習頑張れそうだよ」

「まだやるの?」

「もうちょっとだけ。納得行かない所があって」

「頑張ってね。このタオル使って」

「ありがとう。気をつけて」

愛はリンクサイドから出て行った。

再度リンクを見ると、晃也はまたジャンプの確認をしていた。

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