第8話

「そうですか。付き合う事になったんですね」

「うん。外山のマイボトルのお陰」

「僕はただ言っただけです。僕はフィギュアスケートの事は何も知らないのですが、愛は詳しいんですか?」

「キッカケは母なの。母がフィギュアスケートの黒木省吾の大ファンで、昨年長野に全日本選手権を見に行ったの。その時、中学3年の彼が試合に出ていた」

悠は一言も返さず、ソファーの上で愛の話を聞いていた。

テレビの収録のスタンバイ待ちだった。

「一瞬、世界が止まったの。もう釘付けになってた。試合が終わるまでの4分…… 彼を好きになっていたの」

「同じ学校の人というのは知っていたんですか?」

「芹沢晃也って何処かで聞いた名前だと思ったの。そうしたら隣のクラスの子だった。そして彼と同じ高校に入ったってわけ」

悠は温かな目で愛を見つめた。

「そうだったんですか」

「スカウトされた時も、彼の練習を見に行ったわ。そしたら不思議と勇気が湧いたの。やってみようと思った」

愛の目に強い光が入った。

「愛も光を放てますが、彼も光を放つ人なんですね」

悠の言葉を聞いて、愛は目をパチクリさせている。

「光?」

「はい。それを持っている人は多くはありません。極一部の限られた人達だけのものなんです」

悠は穏やかな口調で、でもキッパリ言った。

「私はそれを持っているの?」

「はい。それを引き出すのが僕の仕事です」

まもなく、スタンバイの連絡がスタッフからあり、愛と悠は控室から出て行ったのである。

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