第31話

歩希の足が完治したのは4月の桜が咲く頃の事だった。

明和大学陸上部では必ず毎年お花見がある。

監督の夫人が作った花見弁当や、寮母さん達が作った花見弁当、3人のマネージャーが作った花見弁当がズラリと並ぶ。

この日だけは厳しい練習も忘れて思い切り楽しんだ。

もうすぐ陸上部には新入部員が入って来る。

そして歩希は3年生になる。

「はい。宮本君」

咲香がいなり寿司の入ったお重を歩希に差し出した。

「ありがとう。頂きます」

早速口に運ぶ。

「私が作ったの。どうかな」

「美味しいです」

歩希は思わず笑顔になった。

「良かった」

咲香ははにかむように笑うと、お重を他の選手の所に回した。

「いなり寿司。これ、みんなで回して」

あれ?俺だけなの?手渡し。

些細な事かもしれないが、歩希は嬉しかった。

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