よくある異世界召喚モノ

千枚舌

最終話 異世界召喚!?

 いつも通りの日々だった。


 朝起きて、身支度をして、会社へ行き、仕事をして、少し残業をして、帰る。

そんないつも通りの日々を、俺はなんとなく過ごしていた。

 

 そんな日々に幸せも感じていたし、特に不満はなかった。


 ただその日は少しだけ行動が違った、具体的には帰り道に公園に寄ったことだろうか。


 コンビニで買ったホットスナックのチキンを片手に公園の敷地へ足を踏み入れる。

そして一度立ち止まり、きょろきょろと辺りを見回しベンチを探す。きっと周りの人からは挙動不審な不審者のように見られるかもしれないが、知ったことではない。


 そうして、あそこにするか。と目星をつけ、歩を進めようとした瞬間———足元が突然輝きだした。


「えっ!?何!?なんか、光って―――」


 魔法陣のようなそれはだんだんと輝きを増していき、ついには目を閉じることを強制されるほどに眩い光を放つ。状況が理解できぬまま、体は光に包まれていき―――


―――俺はこの世界から旅立った。


 


 突然、妙な浮遊感を感じたと思ったら、今度は何やらざわめく声が聞こえてくる。


「…おお…ついに…!」

「成し遂げたのか…!」

「召喚が…成功した…!」


 いったいなんのことだろうと訝し気に瞑っていた目と顔を隠すようにクロスさせた腕をほどく。すると目に入ってきたのは黄金の輝き、ゆっくりと辺りを見回すと、いまいる部屋全体が黄金で出来ているようだった。


 そして自身の周囲を取り囲むように人が集まってくる。様相はきらびやかな格好をしている者、ローブを纏っているもの、甲冑を纏っているものなど様々だった。


 じわじわとにじり寄ってくる者たちの目は何か物珍しいものを見るような目をしながらも好奇心を滾らせていることが感じられた。


 状況に混乱していると、一つの大きな声がかかった。


「皆の者!ここに勇者の召喚は成った!我らの悲願達成はもうすぐじゃ!だが焦るでない、今は勇者を丁重に迎えねばならぬのでな、さぁ、道を開けよ」


 声のする方を見ると、頭に豪奢な王冠を乗せ、口ひげをたっぷりと生やした中老のおじいさんが立っていた。


(なんだ?どこかの国の王様…か…?というかそもそもここはどこなんだ?さっきまで公園にいたはずで…)


 混乱が少しずつ収まり、頭の中に疑問がふつふつと湧いてくる。状況に困惑しながら、ゆっくりと歩みを進める王様が近づいてくるのを待つ。


 そうして手を伸ばせば届きそうなほどに近づいたところで、王様は歩みを止めた。

そしてゆっくりを頭を下げ、告げる。


「ようこそおいでくださいました、勇者様。私はヘルメス王国の王、アルベール・リンドル・ヘルメスと申します」

「ど、どうも…」

「突然の召喚による無礼をどうかお許しください」


 頭を下げたまま国王を名乗るアルベールに未だ状況に困惑しながらも、頭の中ではいろいろな考えが渦巻き、一つの結論を出していた。


(…これって…もしかして…異世界召喚!?)


―――異世界召喚、それは近年巷で人気な小説の展開。ある日突然異世界に召喚され、勇者となり、突如与えられた力で無双し、俺TUEEEEEEEEとなるのが王道。


 まさか自分の身にそんな夢みたいなことが起きると思わず、内心めちゃめちゃテンションが上がっていた。


(マジで!?俺が異世界召喚!?もしかして無双できちゃう!?)


 そんなことを考えているうちに、王様の話は終わったようで、誰かを呼んでいるようだった。そうして人垣の奥から一人の女性が姿を現した。手には占い師が使うような推奨をを持っており、淡く青い輝きを放っている。


「さあ勇者殿、この水晶に手を」


 促されるまま水晶に手を伸ばす。


(これは…あれだ、勇者の力がどれくらいのものか測るやつだ、きっととんでもない数値が出るんだろうなぁ…)


 ワクワクしながら水晶に手を触れる、すると水晶の輝きが少しづく増していく。そうして水晶の中に文字が浮かび上がった。自分には見覚えのない文字だったので読むことができず、周りの反応を探ってみる。


 すると―――驚愕の声が上がった。


「な、なんじゃこれは…!」


王様が驚きのあまり後ずさる。


(どうしたんだろう…もしかしてめちゃくちゃすごいのか!?本当に俺、最強になっちゃった!?)


心の中で小さな自分がダンスを踊る。それはもうはっちゃけたダンスを踊っている。

ただ、王様の次の一言ですべてががらりと変わった。



「魔法適正ゼロ、じゃと!?ざ、雑魚ではないか!!」


(は?)


「しかも…ほかのステータスもほとんどゴミではないか!!なんじゃこいつは!生きる価値すらないではないか!!」


(え?)


「もうよい…そやつを処刑し、新たな召喚の準備をせよ、今回は失敗じゃ」


 周囲にざわめく声が響き始める。


(え?なに?雑魚?俺が?異世界召喚なのに?うそでしょ?)


 再び脳内が混乱で満ちる。


(しかもあの人、今処刑っていった?聞き間違いだよね?)


 理解が追いつかないまま、甲冑を纏った騎士に囲まれ、跪かせられる。


(あれ?俺、死ぬの?今?ここで?なんd———)


 そうして俺は、首から下の胴体と別れを告げ、我が人生とも別れを告げた。

































―――おしまい。



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