願いが叶うなら
冬咲 華
第1話 落下物
裏山の秘密基地兼、実験室である山小屋へ、いつものように籠っていると、何やら窓の外が急に明るくなる。
それと同時に、とても嫌な予感がした。
俺は迷わず、そばに置いていた、防護服に身を委ねる。
時を同じくするように、もの凄い勢いで何か光るものが、上空から急降下するのが見えた。
その刹那、眩い閃光。
“ビシッ!バリバリガッシャンッ”
爆風に似た波動は、地響きと共に一瞬で駆け抜けると、室内すべての窓ガラスを、木っ端微塵にした。
誰もいない室内で、防護服に護られ無傷の俺は、カウンター越しからそっと顔を出す。
「……何だ?何が起こった?」
周りの惨状を目にすると、誰に言うでもなくつぶやいていた。
すぐさまま我に返り、そのままの格好で外に出る。
少し離れた場所で、とても深い見事なまでのクレーターが、土埃を上げているのが見えた。
“プシュー” 排気音が漏れる。
我知らず興奮を覚えた俺の足は、自然とそのクレーターの方へと、近づいていた。
暗闇の中、地面へとめり込んだであろうものを、確認するために。
灯かりを手に、そっと覗き込む。
中心に、淡く輝くような一つの塊が、所在なさげに浮かんでいた。
あらかじめ用意していたのか、それとも無意識だったのか……
手に持っていた火箸のような物で、その浮遊物をそっと掴むと、左手に持っていたケースに、それをゆっくり丁寧に納める。
収められたそれの、未だ淡く輝く形状に、思わずうっとりとする。
その一連の動作に、何の躊躇いも迷いも無かった。
やるべきことを果たした俺は、ちょっとした満足感を抱きつつ、何事も無かったようにそれを持って、もとの山小屋へと戻って行った。
その間も、遠くでサイレンの音が鳴っているのを、耳の端に留めながらも、先ほど採取したケースを、大切に地下室へとしまい込む。
室内の片付けに取り掛かろうとして、ふと現場写真をとるべきかどうか迷う。
まもなく役所関係らしい人達や、研究者らしき人達など、物々しい格好をした人達がやって来て、大きめの鉱物などを、採取・回収して行った。
役所の人達や、警備にあたっている人達は、それぞれ小さな声で呟いている。
『……こんなに大きな物が落ちて来るなら、もっと早く分かっただろうに、何で早めの対策はとれなかったんだ……』
聞くこともなく耳に流れ込んできたが、この場での言い争いに発展するようなことは、無かったので、ひとまず胸を撫で下ろす。
役所の人らしき人達は、衝撃波で窓ガラスが粉々になっている室内を、被害状況・状況調査の記録として、何枚か写真に収めていたが……
それを見ていた俺は、内心ドキドキしていた。
都合の悪そうなものは、すべて地下室だ。
人が来る事は予想していたので、あらかたのものは急いで運んだ。
地下室への入口は、分からないように隠蔽している。
たぶん、大丈夫だとは思うが……やはり落ちつかない。
背中に嫌な汗が流れる。
平常心!平常心!
念の為の避難について、有無を問われたが、俺は丁寧に断った。
半強制避難になるかと身構えたが「大丈夫です」と断わると、念のための避難指示は見送られた。
墜落現場で被害現場である場所が、町から離れた一個人宅の敷地内である、山中の一画のみであり、幸い火災なども無く、窓ガラスが割れただけで、それ以外これといって被害は無い。
まあ、敷地内にクレーターのある、面白物件にはなったが、それだけだ。
任意ではあるが、騒ぎ立てないよう口止めされたくらいで、あっさりしていた。
正確な場所についても、発表しないらしい。
幸い危険な物質の反応は、全く出ていなかったことが、要因の一つには違いないが……
何より専門家達や、役職の高そうな人が、この事が全く予測できずにいたのが、若干都合が悪かったようで、あまり事を大きくしたくないという気持ちが、見え隠れしている。
事前の対処。避難・注意勧告の絡みなんだろう。
俺も、他人が観光気分で押しかけるのも迷惑なので、願ったり叶ったりなので、その話に乗る事にした。
個人保険として、保険の対象になるかもしれないので、証明等の話は出たが、身バレするしで、今回は見送った。
一応、親との連絡などはあったが、居住用では無いこともあってか、大人達は驚くほどあっさりと、去って行った。
バタバタ帰って行く人達の、姿を見送りながら、俺はニヤケつきそうな頬を、必死で我慢し続けた。
翌日、ネット検索により
大気圏外で漂う欠片(宇宙ごみ)が落下した事。
通常であれば、大気圏通過時に燃え尽きる事。
今回は、欠片が若干大きかったと推測され、それにより燃え尽きる事なく、一部が地上にたどり着いたのではないかと、憶測された事。
また欠片は小さく、地表に到着するまでは耐えられず、溶解・原型喪失したものと、判断された事。
それら報告は、とても小さく公表された。
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