6 題名:いつかまた。
一人の少女は親の目がない内に外に出た。彼女は散歩をした。あちこち、あちこち。
草原を駆け抜け、やがて疲れた頃に草原で寝転んだ。その景色は、満天の星空は綺麗だった。
けれど、ここはどこ。とキョロキョロしても知らない景色しか見えない。
少女は泣いて、泣いて泣き声を荒げた。わけも分からず泣き続けた。
ここは何処? 何処なの? と。
泣き続けて、泣き疲れてしまったのか。やがて少女はうとうとし始めた。
でも揺れる視界が面白いと感じたのか、少女はゴロン、ゴロンと悪い寝相の遊びをし始めた。そのまま目を瞑りし続けていると。
瓶が振られた音が聞こえた。カラン、と。
少女は目を開けると見知った景色にいた。あれ? ここは――
「どこ行ってたの!」とドアから少女のお母さんが出て来た。
「ご、ごめんなさい⋯⋯。」と呆然とした頭で少女は返した。家に帰って来たんだぁと少女はぼーっと思った。
「はぁ、ほんっと無事で良かったぁ⋯⋯。」と一瞬怒りたい顔をしたけど、直ぐに言うや否や少女のお母さんは少女を抱きしめた。
「お家、帰ろっか?」と笑って聞く少女のお母さんに先ほどのことは少女の頭から抜けていった。
「うんっ!」と少女は返した。
森が家の周りに。落ち葉がひらりと舞う中、少女はお母さんの手につられお家へと帰っ――
「おかわり⋯⋯。」と誰かが言った。
少女はその声に後ろを振り向くも、誰もおらず首を傾げていると「れーちゃん?」と呼ぶ声がし。
「うん! 今行くー!」と言って気の所為かなと思いながらお家へと入っていった。
瓶の鳴る音が一回、小刻みに鳴った気がした。
「あ、お手洗いとうがい。一緒にしよっか。」とお母さんは言った。
「う、一人で出来る!」
「ほんとうに?」
「うんっ!」
「じゃあ、ちゃんとやるんだよ。」と笑って言うとお母さんは何処かへ行った。
少女は、テレビ放送を楽しみにしながら、ちゃんと洗面所へと向かい、手を洗いうがいをちゃんと出来た。
「ご飯、出来てるからねー!」とお母さんの呼ぶ声がした。
「はーい!」と少女は言い駆けてゆく。
「今日はれーちゃんの好きな食べ物だよ。あぁ、ほんとに無事で良かった⋯⋯。」とお母さんは言った。お母さんは今にも泣きそうだ。
少女はようやく事の重大さが分かった。
「れーちゃん、後でお話があります。」と今度はお母さんが恐い顔をしていた。少女は事の重大さをちゃんと理解した。
「はい⋯⋯。」としょぼくれた。
「じゃあ、冷めないうちに食べちゃおっか。せーの」
「「いただきます!」」
食卓を彩るのは少女の好物ばかりであった。けど、お母さんは不意に立つと何処からか少女の苦手な食べ物も持ってきた。
「嫌いなものはちゃんと食べないとダメなんだよ。偏った食事だけじゃなく、栄養はちゃんと採らないと。」とお母さんは少女に向かって言う。
「え、でも⋯⋯。」と少女は駄々をこね――いや、テレビに目線がいっていた。
「ほら、ちゃんと食べてね。」とお母さんが食べ物を差し出して言った。
「う、うーん。」と困ったように眉を下げ一口だけならと思い手を伸ばす少女。
それを影から見ていただろう女がもう我慢ならないと言わんばかりに出ていった。
「食べるな!」と。
突然のことに少女はびっくりし、尻もちをぺったんとついた。
「別にアイツのお代わりになりたいんだったら止めない。でも、あんたみたいな子供は早く帰れ。私みたいに何年も何年もいなくていい内に。さっさと帰りな。」と女は喋る。
でも――と少女はお母さんを見てあれ? と思った。動いていない、と。
慌てて少女は家の外へと向かって走り出した。そういえば、と少女は靄が晴れていった。思い出したのだ。自分の家の周りの景色を。そして景色が違っていたことに。
どうして家の周りの景色を見知った景色と思ったのだろう? と思うも分からず。
「気をつけてね。」と女が言った。少女はその声に慌てて振り返って
「お姉ちゃんは! 行かないの!」と女子高校生くらいの見た目の女に少女は声をかけた。
「私は――行けないんだ。忘れてしまったからね、帰る場所を。」と女は笑って言った。
「忘れ、た?」
「いいから行きな。忘れるのはあっという間だ。本物のお母さんが待ってる内にさ。」と女は言う。
「嫌だ、お姉ちゃんも一緒に――」
「ッ行け!」と少女の背を女は押した。力の差は圧倒的。少女はドアまで押された勢いで転けていった。そんな少女の指先はドアに触れていた。その瞬間。
「どうして!」と誰かの声がした。
「逆にさ、こんな幼く何も分からない子供を狙ってこんなこと。大人としてどう? 何とも思わない? 恥ずかしくないの?」と女が言ったのが聞こえたかと思うと。
瓶の音がカラン、と鳴り響き。目の前には草原が広がっていた。お姉ちゃん⋯⋯と想う少女の手には瓶の破片が。
私は今でも、あの時のお姉ちゃんを忘れていない。後悔しているんだ。お姉ちゃんは帰る場所を忘れたから行けないと言っていた。何年もと言っていた。
でももし覚えてたら帰る場所は違えど、ここでまた会えるかもしれない。もしも会えたらお姉ちゃんの帰る場所を探すんだ。
だからこそいつか、お姉ちゃんが思い出して帰れるように私は忘れちゃいけない。
でも、もしもいつかまた会えたらその時は――。彼女のあんな苦しい笑い方じゃなく、心の底からの笑顔が見たいだなんて烏滸がましいだろうか?
そう目の前の彼に少女、いや成長した少女は語った。
「忘れないよう、この物語を繋いで欲しいんだ。」
「うん、良いよ。ただし、僕の声が届く範囲ならね。」と一人の男が応えた。
題名、いつかまた。
私は気になってつい声をあげた。すると彼は「これが物語じゃないのか、そうじゃないのかだって? ――うーん、さぁ?」と言った。
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