第8話【不安な事】

「やっほ! 有名人さん一緒に帰ろ」


大学の講義が終わり帰ろうとしていると、俺にVTuberを勧めてきた香澄がそう声をかけてきた。

香澄は容姿端麗で勉強も俺より全然できる。誰にでもフレンドリーな性格で相当にモテる。


「有名人って……」

「本当にびっくりしたんだから。ルナちゃんの配信見てたら急に翔太の名前が出てきたんだもん。それからありえない勢いで色々決まってちゃって」

「それは俺の方が驚いてるよ」


 本当にここ数日で色々ありすぎてまだ夢のような気分だ。


「まぁどーせ翔太の事だから可愛い女の子達と話せてずっとニヤニヤしてたんでしょ」

「そんな事ねぇよ」

「まさかオフコラボって……翔太がルナちゃん達に手を出さないか本当に心配」

「そんなことしねぇよ。そんな事したら命がいくらあっても足りないわ」

「心配なのはそれだけじゃないんだけどね……さ、帰ろ翔太」


 そう言って香澄は俺の腕を組んで引っ張って来た。

 香澄は昔からこういう事を普通にしてくる。本人は幼馴染だからいいじゃんと言うが、俺の周りからの視線もそろそろ考えてほしい。

 

「でも翔太が楽しそうで良かった。VTuber勧めて正解だったね」

「香澄がVTuberやってみたらって言ってくれなかったらこうなってなかったからな」

「そうだよ! だから私のお願い一つくらい聞いてくれても良いと思うんだけど~」

「俺にできる事なら一つくらいなら」

「え!? 本当に⁉ じゃあ考えておくね!」

「あまり無茶なお願いだけはやめろよ」

「大丈夫大丈夫。そういえばブイラブの事務所にはいつ行くの?」

「今週の土曜日」

「はぁ⁉︎ 早すぎじゃない⁉︎」


 確かに皆んなに報告……いやそれ以上前から話が直ぐに決まって直ぐに決行するけれど、それは仕方のない事ではある。


「毎日暇な俺達と違ってルナちゃんとかはスケジュールが詰まってるから暇な時が少ないんだ。だから空いてる日に俺が合わせたらこうなったんだ」

「あーそっか。事務所に所属すると大変なんだね」





『ねぇねぇあの彼方くんとようやく対面だよ~?』


 配信が終わり、私はアリスちゃんと雫ちゃんと通話をしている。

 それを言われるとやっぱり緊張しちゃう。


『ずっと言ってたもんね、彼方くんに会ってみたいって』

『そうそう。何回聞いたことか』

「だって……会ってみたいじゃん! 推しだよ?」

『まぁ私もどんな人なのか気にはなるけどね』


 でも私は一つ不安に思う事がある。それは――。


「でもね、不安な事があって……月宮ルナの中の人が私でがっかりされないかなって思って」

『あはは、それは絶対にないから安心しなよ』

『そうだよ~。もう凄い可愛いんだから~』

「で、でも……もしがっかりされたら私当分配信できる気がしないよ……多分二、三年くらい活動休止すると思うからそうなったら二人ともお願いね。」

『何馬鹿な事言ってるの、そんな事絶対にないから大丈夫だって』


 アリスちゃんと雫ちゃんはそう言ってくれるけれど、それでも心配な事は心配。

 他のVTuberの方ならまだ思われても良い。けれど推しの彼方さんには絶対に思われたくない。けれど会いたい。

 でも会っちゃったらホラーゲームしないといけないのか……うぅ。

 これも代償ってやつなのかな? 


『そういえばルナちゃんももう直ぐ登録者百五十万人だね~』

『ブイラブ初の百五十万人まで後少しだね』

「彼方くんのリスナーも沢山私の事知ってくれて登録してくれたもん。ありがたいよね。でも百三十万人から百四十万人まで結構時間かかったから後少しではないかなぁ」

『まぁそれはそうかぁ。それと彼方くんも登録者凄い増えてるよね』

『それよりルナちゃんはあの企画順調?』

「うん。順調だよ。二人もお願いね」

『任せて! 今までで最高のものにしようね!』


 彼方くんも楽しんでくれたらいいなぁ〜。


『でもレッスンきつすぎてクタクタだよ』

『私もー。ダンス苦手だから大変だよ〜』

「皆んな本当にありがとね」

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