Episode-2
学校に到着し、昇降口で上履きに履き替える。
教室を目指して三階を通り過ぎ、四階へ向かおうとすると――。
「どこ行くんだ?」
賢佑に呼び止められた。
「教室、こっちだぞ」
「あ、そっか。変わったんだった」
「おいおい。二年になって一週間以上経ってるんだぞ。しっかりしてくれよ」
「あはは……」
まだ頭が覚めていないらしい。足が勝手に、先月まで使っていた教室に向かおうとしていた。
慌てて賢佑の隣に戻る。
二人で並んで廊下を歩いていき、一番奥にある教室に揃って入る。
「それにしても、二年も賢佑と同じクラスでよかったよ」
「大袈裟なんだよ。琉夏って友達いない訳じゃないだろ?」
「でも、気軽に話せる人が一緒って、安心するよね」
「話せる奴なら他にもいるだろ。六郷みたいに」
賢佑が教卓を取り囲んで話している女子の集団を指さした。
その中の、賢佑の人差し指の延長線上にいた子がこちらに気づいた。
グループの女子たちに何かひと言ふた言を話した後、シュシュの付いた毛束を揺らしながら近づいてくる。
「おはよう、委員長」
横で賢佑も「はよ」と面倒臭そうに、短く挨拶をしていた。
でも俺たちに挨拶が返ってくることはなく、代わりにプリントの束を胸に押し当てられる。
「
「えっ? え?」
そのまま委員長は教室を出てどこかへ行ってしまう。
「また雑用押し付けられてやんの」
「ホームルームまであと五分もないんだけど……」
一年の頃から、同じクラスで委員長をしていた六郷さんには、よく仕事を頼まれていた。
せっかく学年が変わって解放されると思っていたのに、今年もこの役目は変わらないのか……。
また一年間雑用係としてこき使われることになると理解して、項垂れる。
プリントは、珍しく手伝うと言ってくれた賢佑のおかげで、先生が来るまでになんとか配り終えることができた。
寝坊して朝ごはんを食べ損ねたことで、空腹との死闘を繰り広げることになった午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
起立、礼を済ませれば、やっと昼休みだ。
なんでもいいから早く食べたいという一心で、財布を手に誰よりも先に教室を飛び出した。
食堂に併設された購買で、おにぎりをテキトウに三つとペットボトルのお茶を買って教室に戻ってくる。
「お待たせ」
賢佑は俺の前の席のイスを反対に向けて座り、机の上に弁当を広げていた。
「今日は随分と早かったな」
「朝ごはん食べられなかったから……」
「寝坊したせいでってか?」
「そうそう」
会話の隙を見て、おにぎりを頬張りお茶で流し込む。
「家の手伝いか?」
「母さんが今日の授業で使うプリント作っといてくれって。おかげでほぼ徹夜だよ」
「なになに? なんの話?」
偶然後ろを通りかかった委員長が話に割って入ってくる。
「琉夏が夜遅くまで大変って話」
「夜遅くってどういうこと? 城、バイトでもしてるの?」
「まあ、そんな感じかな」
「へぇー……城が。知らなかった。ま、気をつけてね」
「気をつけるって?」
「ほらウチってバイト禁止じゃん。 先生にバレないようにってこと」
「ああ、そういうこと」
本当はバイトでもなんでもなく、無給同然で家業の手伝いをさせられているだけだから、バレても何の問題もないんだけど。
そんな細かい事を言い出すと話が拗れそうだったので「気をつけるよ」と言って、会話を打ち切った。
委員長が朝と同じ女子のグループの中へ入っていくのを見送る。
こっちにまで聞こえてくる大きな声で話し出すのを確認して、二人だけの食事に意識を戻す。
「この話、あんま学校でしないほうがいいかもな」
賢佑の言葉に黙って頷いた。
俺に後ろめたいことがなくても、変に誤解を生んで、親が呼び出されたりしたら迷惑を掛けることになる。両親を困らせるのは心苦しい。
そうならないことを切に願いながら、残っていたおにぎりを一口で食べ切った。
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