32 ロバート様と話す

食堂で朝食を食べて、学院に向かった。間に合う時間だったが少し心配で急ぎ足で歩いた。それで学院に着いた時はくたびれてしまった。


「おはよう、リリー」「おはよう、パメラ」「おはよう、パメラ。リリー」

二人と会うと、元の世界って感じになった。


「お姉さま」「リリー、なぜ、逃げ出したんだ。手を治してくれ」

元の世界だ!!


「アナベル、婚約者さんと帰りなさい」と返事すると


「お姉さま、婚約はやめました」


「帰りなさい」繰り返すと時間切れ。授業が始まった。


お昼にハリソン様が迎えに来てくれて、四人で食堂に行った。


そこで、ブラックレイク家とミシガン家に注意して貰うよう頼んだ。


「そうだね、わかった。部長から注意して貰おう。王室からは大げさだからね」とハリソン様が言った。


卒業まで穏やかに過ごしたい。



魔法士部隊長からの注意は効き目があったようで、ロバート様もアナベルもわたしを悩ますことはなくなった。


ナタリーの家に泊まりに行って、パトラの家に泊まりに行った。


二人も、もう一度泊まりに来た。


ハリソン様が作ってくれた庭のあずまやで、あの茶器を使ってお茶会をした。


「わたし、この日を絶対に忘れない。お茶の味。お菓子。ナタリーがこぼしたお菓子のクズ。猫の尻尾がぴょんと立ってること。猫を遊ばせるカラス」とパトラが言うと


「そうね、忘れない。これからたくさん幸せで楽しい思いをするつもりだけど。この瞬間を忘れない」とナタリーも言った。


わたしたち三人は黙って夕日が沈むのを見た。




このしばらく後、わたしはロバート様と二人で話をした。ロバート様からこっそりと打診があったのだ。


アナベル抜きで話したいと。


そこで聞いたロバート様の話は驚いたが、納得出来るものだった。


ロバート様はわたしと婚約出来た時、兄に先んじて婚約出来たことが嬉しかったそうだ。子供だったし。

わたしのことも可愛くて、いいなって思っていたそうだ。


そしてある日、お茶会で我が家を訪れた時、侍女が話をしているのを聞いて、驚いたと言うことだ。


「ロバート様ってだんだんかっこよくなってるわね」


「あのリリー様には勿体無いわ」


「でも、子爵の位をリリー様が貰うでしょう」


「それが、旦那様はアナベル様に譲るつもりみたいよ」


「やっぱりね」


「なにも知らないロバート様が気の毒。あんなのを押し付けられて」


これ以上は聞けなくてお茶会のあずまやまで来たけど、侍女の話について親に相談したそうだ。


子爵ってなに?あそこは伯爵でしょ? どうして子爵?譲るって?


それでミシガン伯爵には子爵の位があること。それを貰えば貴族でいられること。貴族じゃなくなったら、苦労が多いことがわかったそうだ。


それでブラックレイク侯爵夫妻は、それならアナベルと結婚するほうがいいから、婚約者を変えようと計画を立てたそうだ。



いずれなくなる婚約の相手にはお金をかけないから、安物の贈り物をしたそうだ。


「だけど、あのペン軸は見かけた時、君の目の色だと思ったんだ。ぜひ、君に持って貰いたかった」


「そうですか?それで?」


「はぁ・・・それがアナベルと君の家族、使用人が理解できない。そりゃ、わたしはリリー。君を騙した。全員で君を騙した。

婚約とか結婚の相手は一人だよな? それがハリソン様と婚約するようなことを平気で口にするし・・・


たしかに今年は優勝出来なかった。だが、騎士団に入団することが決まっているが、正直わたしの実力で優勝出来たのは奇妙だ。


優勝戦で戦った相手も入団出来る。競技会でいろいろな攻撃が出来ると証明出来たんだ。


わたしが相手ならせいぜい一撃、二撃しか披露出来ない所をたくさん披露出来て良かったとか言ってるよ」


そう言うロバート様は悔しそうだ。それからまた話を続けた。


「自信なんてなくなったが、機会を貰ったのは確かだ。せいぜい頑張るよ。


話がそれたな、剣術はともかく、わたしは見た目もそこそこだ。


アナベルに優しくしてる。婚約してるし、披露もした。


それが、どうして君に譲るとかになるんだ。そのことだってわたしに何の相談もなくいきなり言い出して・・・


ハリソン様とか・・・わたしとハリソン様と両方とか・・・やっぱり君に譲ろうとか。


ひどい時は騎士団長の息子の名前まで出てくるし、最近は魔法士部隊の名前も・・・当たり前のように話している」


「そうですか」と単調に返した。


「それしか、言ってくれないのだな。そうだ。自業自得だ」


「そうですね」


「うちの両親もおかしい。君と婚約。もう一度婚約しろとか言い出した。兄は二人から距離を取っている。


わたしにも、そうするように言って来たが、言われなくてもそうする」


「そうですね」


「アナベルが次に、婚約をやめたいと言いだしたら、今度はなだめたりしないで、了承するつもりだ。兄も同じ意見だ」


「そうですか」


反応のないわたしにがっかりしたようだが、わたしは話してよかった。


ある意味、ロバート様も被害者だとわかった。わたしがやったことで彼の人生は変わった。


彼もわたしも口に出さないが、優勝はわたしの力だとわかっているだろう。彼の矜持はずたずただろう。


わたしの沈黙を、ことの真相を言わないことを、情けをかけられたと思ったなら余計に・・・


だからと言って、許すつもりはない。だが、わたしの知らない所で幸せを掴むのを邪魔するつもりはない。


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