26 騒ぎと宿舎

王宮の小部屋に通された。馬車から降りてすぐの部屋だった。少し待つとブルース様がやって来た。そしてこう言った。

「リリー、なにがあったのか学院の騒ぎの報告を受けました。すぐにハリソンを頼ってくれて良かったです」


「はい、そのーーわたしは治療が出来ます」と言うと二人はうなずいた。


「なんとなく推測はしていました。ロバートのこととか、ジョンも・・・」とブルース様が言った。

「ミシガン伯爵家に聖女、聖人の血が入ってますね」とハリソン様が言った。


「はい、歴史は長いですから」と答えて、あっと自分でも気がついた。でもそれは誤解なのだ。


「それはあまり関係ないと思います。聖女、聖人について祖父母から話を聞いてますが、最近の小説に出るような存在じゃなかったと伝わっています」


「それを聞かせて貰っても?」とブルース様が言って、ハリソン様も頷いた。


「話していいのか、判断出来ないです。一応、家族はみな、知って・・・ると思いますけど・・・祖父母の話を馬鹿にして聞かなかった?かも・・・ 祖父母の許可がないと、でも治癒魔法を使える人っていないってことはないですよね。その聖女、聖人の血に関しては、入ってないと言う方が正解だと思います」


「治療師はそうですね。騎士団に治療師は所属してますよ。そうですね。治癒魔法を当てにして、部隊に入れたわけではないですよ」とブルース様が言った。



わたしは曖昧に頷いた。他に取り柄があるとも思えないけど、なにかあるのだろう。


「ただ、騒いでいるのはロバートとアナベルだけです。だから力で押さえて噂にしない。心配することはない。リリーも否定すればいいから。それに王宮魔法士団と言うのは怖い存在ですよ」とハリソン様が笑って言った。


安心できた。すぐにハリソン様に言ってよかった。


その後、家でアナベルが煩かった。


「お姉さまみたいな考えなしに魔法は勿体ないです。間違いです。わたしだったらロバート様の治療なんか簡単にできます」と言うので会話も面倒で


「やればいいでしょ。別に誰かに習ったわけでもないわよ。何度もやって覚えたのよ」と言って黙らせた。


母は


「ロバート様は怪我が治れば騎士団でも出世しますよ」と言うので


「よかったわね。アナベル」とアナベルに言った。


父は


「最下位で魔法士部隊なんて間違いだ」


「最下位ですけど、間違いなく入団です。署名なさったでしょ!」と思い出させてあげた。


兄は

「王宮で働くのは甘くないぞ。お前に出来るのか?」


「下級は大変そうですね」と同情してあげた。


弟は

「姉上はいつもパッとしないよな。治療が出来るなんて誰がそんな馬鹿なことを言い出したんだろうな」


「ロバート様とアナベルよ。ほんとに馬鹿よね」と答えを教えてあげた。補足するとね、カイル、あなたもよ。


もう、面倒でたまらない。早く家を出たい。




そして、ある週末パメラとナタリーをわたしの宿舎に連れて行った。


「えーーなんか可愛い」「ちょっとぉぉお。ここで暮らすっていいなぁ」「わたしも住みたい」と二人は家じゅうをと言っても家と言うより部屋だが、遠慮なく見て回ってこう言っている。


わたしは、お茶を入れて二人をテーブルに座らせた。


「さて、もうだいぶ前になるけど、あの日リリーが帰ってからの話をしましょうか」とパメラが改まった。


「ロバート様とアナベル様が教室に来ました。ロバート様は治療してくれって騒いで、アナベル様はお姉様どういうことですか?って騒いで、授業が始まるまで教室にいました」とパメラが言った。今は学院では騒いでいないと言うか黙らせてくれた。


それから、ナタリーが

「これは絶対に秘密を守るし今しか口にしないけど、あの馬ってリリーが治療した?いえ、返事しないで。


わたしの推察を言ってるだけ。あの馬が故障したのをかなりの人が知ってるって父が不思議がっていたの。


お兄様が乱暴に乗ったのを見た人もね。その馬が競技会に出て元気に完走した。厩務員が優秀なのかって思ったっですって、父はね。


そして馬も強いって思ったそうなの。だってね。乗っているのは自分の娘の友達で確かに上手だけど。


馬を活かすほど上手とは言えない・・・それ以上に馬が素晴らしくて欲しくなった。


だけど生徒会のことで違和感とかって言うのを感じたそうで、譲って良かったって・・・でも時々、馬のことを考えてしまって、もしかしたらリリーが治療?って思ったって、そしてロバート様の試合のこととか考えたって。


そしてこの話は終わり。忘れてね。わたしも忘れた」


三人は顔を見合わせて微笑みあった。するとナタリーが

「あっ忘れてた。あの王子様。ハリソン様はすごく上手な乗り手だと父は申してました。


いけない!王子様を評価なんて。これも忘れて」と言った。


「忘れました」「忘れましたよ、確かに忘れました」とパメラとわたしはナタリーに真面目な顔で言って、それから吹き出した。

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